10周 ページ10
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「不幸じゃない。頑張りすぎたんだ」
「頑張ってないよ、なんにも」
「頑張ってる！お前の指、小学生のときよりずっと硬い。家でずっと弾いてるの、知ってる。中学のとき大会出るために毎日はやく行って残ってたのも知ってる。毎日ちゃんと勉強して、ちゃんと高校でも続けて……」
鎖を掴んだままの私の手をゆっくりと引き剥がし、指の先を、親指の側面を押していく。もう硬くなってしまったから凹むことはないけれど、それでも感触を確かめるようにずっと握ったまま、離してはくれない。
「みんなそれが普通じゃん、普通で、それで……でもできないんだよ」
「じゃあ休憩だ、今日から好きなこと以外何もしないで、好きなことに目を向けること！」
「好きな、こと……」
「何もしない時間を作るんだぞ」
好きなこと、なんだっけ。
ベースが好き。
ゲームも好き。
音楽も好き。
野球を見るのも好き。
孝介を見るのが好き。
「……好きなこと、好きなようにしていいの」
「俺も好きなもの見るために練習してる」
「……試合、見に行く」
「ほんとか！？よっしゃ！」
よかったぁ、とそのまましゃがんでしまったから、私も釣られてしまう。目が合って、「やっとだ」と笑った顔が頭から離れない。そばかすが浮くくらい毎日頑張って練習してるんだ、好きなものを、きっと甲子園の景色を見るためだ。
「私、たくさん応援しなきゃ……これまでの分も」
私もなにかひとつ言いたいな、なんて人差し指の腹を触ると、少し違和感を覚えた。硬い。
「手のひらにマメできてんの、ほら」
と繋がっていた手を離し、目の前でぐっぱっと手を動かしている。名残惜しいような気もするけどそっか、そっか。
「帰ろうか、試合の日にち教えてよ、お母さんに伝えるね」
「おー！」
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作者名：郁 | 作者ホームページ：
作成日時：2019年12月2日 1時
