2周 ページ2
.
「惜しかったよね、野球部……でもすごかったね!」
「ねー、あんなん足すくんじゃう。ていうか阿部……クン?大丈夫かな?」
部活帰りに廊下を歩いているとちらほら聞こえる話に、他人事ながらニヤついてしまう。
本人には私のことは既に話している。中学3年間、応援に行けず、悔し涙の引っ込め方すらわからず。どこがかっこよかったなんて慰めもできない、傍で見ているしかない。野球のルールがいまいち掴めない今もそうだけど。今年こそ見に行ければと思ったけれど、不幸体質を盾に、恥ずかしかったり緊張したりで応援に行けないのも然りなのだ。
「Aちゃん、お疲れ様」
「千代ちゃん!千代ちゃ〜ん!!」
ぎゅむぎゅむ抱きつくのが日常茶飯事だ。千代ちゃんは可愛い。可愛い子には抱きつくべきだ。心が洗われる気がする。
たまたま教室に何かを取りに来たそうで、靴箱のところで少し駄弁ることにした。
「Aちゃん、もう部活終わり?」
「うん、千代ちゃんは?」
「まだだよ、今日も9時まで」
「うひー!お疲れ様……」
でも苦しいとか辛いとか、そんな顔も一切せずに言うものだから、羨ましくなってしまう。そういえば高校野球が好きなんだっけ、と納得したのも束の間。もうそろそろ行かなければいけないのでは、と言おうとしたときだった。
「篠岡!監督が頼みたいことあるって」
「泉君!ごめんね、すぐ行く!」
じゃあね、また電話するね!と千代ちゃんは手を振り2人はグラウンドの方へ駆けていく。孝介がこちらを見たが、私は見れなかった。見る資格もなかった。
ユニフォーム姿の孝介を久々に見た気がする。いけない、私はもう彼の姿を見てはいけない。次は秋大会のために新人戦に出る、と千代ちゃんの言葉を胸に、思いきり目を逸らしたのだ。
7人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:郁 | 作者ホームページ:
作成日時:2019年12月2日 1時