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「惜しかったよね、野球部……でもすごかったね!」

「ねー、あんなん足すくんじゃう。ていうか阿部……クン?大丈夫かな?」



部活帰りに廊下を歩いているとちらほら聞こえる話に、他人事ながらニヤついてしまう。

本人には私のことは既に話している。中学3年間、応援に行けず、悔し涙の引っ込め方すらわからず。どこがかっこよかったなんて慰めもできない、傍で見ているしかない。野球のルールがいまいち掴めない今もそうだけど。今年こそ見に行ければと思ったけれど、不幸体質を盾に、恥ずかしかったり緊張したりで応援に行けないのも然りなのだ。



「Aちゃん、お疲れ様」

「千代ちゃん!千代ちゃ〜ん!!」



ぎゅむぎゅむ抱きつくのが日常茶飯事だ。千代ちゃんは可愛い。可愛い子には抱きつくべきだ。心が洗われる気がする。
たまたま教室に何かを取りに来たそうで、靴箱のところで少し駄弁ることにした。



「Aちゃん、もう部活終わり?」

「うん、千代ちゃんは?」

「まだだよ、今日も9時まで」

「うひー!お疲れ様……」



でも苦しいとか辛いとか、そんな顔も一切せずに言うものだから、羨ましくなってしまう。そういえば高校野球が好きなんだっけ、と納得したのも束の間。もうそろそろ行かなければいけないのでは、と言おうとしたときだった。



「篠岡!監督が頼みたいことあるって」

「泉君!ごめんね、すぐ行く!」



じゃあね、また電話するね!と千代ちゃんは手を振り2人はグラウンドの方へ駆けていく。孝介がこちらを見たが、私は見れなかった。見る資格もなかった。

ユニフォーム姿の孝介を久々に見た気がする。いけない、私はもう彼の姿を見てはいけない。次は秋大会のために新人戦に出る、と千代ちゃんの言葉を胸に、思いきり目を逸らしたのだ。

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作者名: | 作者ホームページ:   
作成日時:2019年12月2日 1時

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