夏の魔法

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社会の秩序の中で戦ってきた神ちゃんには、
到底追いつかれへん。


「今度の紙おむつのイベント、
営業と合同やねん。
重岡くん、一緒に頑張ろな？」


「はいっ。桐山課長、
ご指導、お願いしますっ」


「重岡くんは元気ええなあ」


俺に向けた神ちゃんの笑顔見たいなら、
仕事頑張るしかない。









帰りの方向おんなじやから、
俺と神ちゃんと藤井さん、
それに桐山課長で、
タクシーの相乗りする事になった。

助手席の桐山課長の家が一番近くて、
すぐに降りて行きはって。

残った、後部座席の３人。

真ん中が神ちゃんやねんけど。


「疲れてんねんな・・・」


藤井さんが呟いた通り。


神ちゃんは、うとうとしてる。


高校ん時に戻ったような、あどけない寝顔。


「神山課長、お酒弱いんすか？
最後ちょっと飲まされてましたよね？」


悔しいけど、今の神ちゃんのこと知りたくて、
藤井さんに聞いてしもた。


「弱いも弱い。
ちょっと呑んだらすぐダウンやで？
なるべく呑まんように気をつけてんのにな」


返ってきた言葉に、
胸がもやもやなる。


俺の知らん、大人になってからの神ちゃんを、
この人は誰よりそばで見てきたんや・・・


「そうなんすか」


「重岡くん、同い年やろ？
敬語ええで？」


「あ、はい、え、うん。
けど、神ちゃ、神山課長はあかんって」


「神ちゃん堅いからなあ。
上下関係とか大事にする子やねん。
俺は全然やから。
課長補佐て春になったばっかで慣れてへんし、
流星でええよ」


「ほんま？
俺も堅苦しいん苦手やねん！
俺はしげでええよ」


「うん。
俺、出身、大阪やねん。
しげ、兵庫なんやろ？
神ちゃんと一緒やな」


「あ、う、ま、まあな」


「兵庫のどのあたり？」


「まあ、田舎の方で」


神ちゃんの、
他人のフリしろという上司命令は、
結構厳しいもんあるで。


思た時、神ちゃんが、俺の肩にもたれかかってきた。

そのまんま体重預けてくる。


あかん。

愛おして、たまらんなるやん。


藤井さん、流星がすぐそばにおるのに。

じっと見つめてまう。


「・・・し、げ、」


微かに聞こえた寝言は、
あの合宿の夜と同じ。


自然と笑みが漏れて。

柔らかい黒髪に、
指を伸ばしかけてた。


もう少しで触れる。

そん時。


「神ちゃん、もう着くで？」


流星が、神ちゃんの事、起こしてしもた。

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