第二幕 弐 ページ8
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手紙の内容は、一言で云えば単純な物だった。自分が死んだ理由、死を想って考えた事、自分が死んだ後の私への言葉(メッセージ)――要するに、遺書だ。
涙が溢れて、止まらなかった。拭っても拭っても足りなくて、床にポタポタと染みを作る。息が詰まる。何も見えなくなる、聞こえなくなる。でも、手紙の内容だけは、ずっと脳裏で空回っていた。
「……京極さん……ッ」
手紙を抱き締めて、小さく叫ぶ。昨日今日と、彼の名前を呼び過ぎだ。でも、他に何を云ったら良いのだろう。彼に伝えたい言葉は有るけれど、独白とするには辛すぎる。胸の中のこの感情は、消したくて消したくて堪らない想い。それを虚空に吐き出すなど、滑稽にも程がある。
届く筈の無い想いを何時までも抱えていること自体、滑稽ではあるけれど。
微かな嗚咽を漏らしつつ、私は必死に考えた。京極さんが私にこんな手紙を渡したのには、何か意味が有るのではないかと。京極さんが、私が苦しむだけの物をくれただなんて、思いたくはなかったから。
手紙を何度も何度も読んで、頭の中で反芻して。ひとつの名前が引っ掛かった。
「綾辻、行人……」
京極さん曰く、彼を殺した『殺人探偵』。
「京極さんの、仇」
殺したい。彼を奪った綾辻行人を、同じようにこの世から消し去りたい。でも、それはしない。
殺人が不可ないからとか云う理由ではない。方法がない訳でもない。只、京極さんが「駄目だ」と云っていたから。手紙には、京極さんを『妖怪』にする立役者となったのは、綾辻行人なのだと書いてあった。だから、「殺すのはやめろ」と。
「……」
非道いよ、京極さん。彼の事をこんなに書いておいて、殺すな、だなんて。それに、京極さんの憑き物が憑いているのが、彼だなんて。
私だって、欲しいよ。京極さんの憑き物。もういっそ、全然違う妖怪でも良いから。私を犯罪者にする為のものでも良いから。
そこまで考えた時、或る
“逢魔京極辻”。それは、京極さんが死んでから名が付き、一気に有名になった、彼の妖怪。人に完全犯罪の方法を教える、『邪悪な妖術師の死霊』。それの京極さんらしさを顕著に示しているのが、その増殖法だ。
逢魔京極辻で犯罪の方法を手に入れ、実行する者が増えれば増える程にその噂は殖え、彼は“妖怪”として完成された存在に近付く。――ならば。
それならば、私が逢魔京極辻の噂を殖やせば――?
思わず、口角が上がった。
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ふらり火(プロフ) - あにもーさん» え、あ、ごめん! (2016年8月21日 21時) (携帯から) (レス) id: 358f9cd815 (このIDを非表示/違反報告)
あにもー - うん、そういうものだと思ってましたです。文がわかりにくくてごめんね (2016年8月21日 20時) (レス) id: 8d0782fc85 (このIDを非表示/違反報告)
ふらり火(プロフ) - あにもー@NL厨さん» いや、『七夕』の話の台詞やらなんやらを一寸変えるだけだよ? (2016年8月20日 23時) (携帯から) (レス) id: 358f9cd815 (このIDを非表示/違反報告)
あにもー@NL厨(プロフ) - おぉ!楽しみー! お盆だしね、会いたいよ!!!(誰) (2016年8月20日 21時) (レス) id: a66a974f2e (このIDを非表示/違反報告)
ふらり火(プロフ) - あにもー@NL厨さん» うん、出しちゃおう!( 織田作ね……何としてでも会わせたくて、やっちゃった← (2016年8月20日 17時) (携帯から) (レス) id: 358f9cd815 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ふらり火 | 作成日時:2016年7月20日 17時