創作短編集 (ページ1)

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猿とバナナページ1

「猿」

その罵倒とも取れる姉からの一言はなぜだか俺の心を抉った。

休日。ソファにぐでんと座りながらバナナを咥える吾郎は意味がわからないというように姉を見る。

「猿？」
「そう」

姉––小春はスマホを弄り、こちらを見もせず答えた。片手にコップ、片手にスマホ。キッチンに置いてある椅子に座りながら携帯では……ゲームをしているのだろうか。

変なところで器用だな、と思いつつバナナを一口。
運動神経も勉強の出来もお世辞でも良いとは言えない、姉は昔からそうだった。

「どういう意味だよ」

俺、少なくともお前よりも頭いいけど。
喉元まで出かけたその言葉を抑えるようにもう一度バナナを口に突っ込む。
危ない危ない。姉ちゃんの蹴りは痛いんだ。

「バナナの皮。何個に剥いてるよ」
「皮？……3つだけど」

それ、と言いながらコップを置き、こっちに体を向ける姉ちゃん。
……体を向けるわりにスマホは見たままなんだな。

「4つが人間、３つが猿」
「はぁ？」
「昔からよくいうじゃない」

いや、初耳だけど。

「別に猿じゃねえし」
「本当に？」
「本当に！」

むしゃくしゃしながら最後の一口を口に含み、皮をゴミ箱に捨てる。
誰が猿だ。

「姉ちゃんの方が猿に向いてるだイタッ」

容赦ない蹴りが尻にヒットする。くそ、女のくせに力だけは強いんだから……

「猿じゃありませ～んバナナは4つに剥きます～」
「いやバナナの皮で人間か猿か言ってる方がよっぽど猿だ…すみません言いすぎました」

向こう側の影に隠れた握られた拳をみて即座に謝罪をする。すみませんでした。

「あーはいはいどーせ猿ですよーだ」
「素直でよろしい」
「でも俺が猿ならお前も猿」
「あ？」
「なんでもないです！」

はあ、とため息をつき立ち上がる。気分転換にコンビニでも行こうか。

「なに、コンビニ行くの」
「なんでわかるんだよ怖っ」
「あんた今バナナ食べたばっかでしょ」
「いーじゃんべつに」

……もう何も突っ込まないぞ。
財布とスマホをズボンのポケットにねじ込み、玄関へ向かう。

「アイス買ってきてー！」

リビングから声が聞こえる。返事の代わりに大きめのため息をもう一度つき、扉を開ける。

そういえばさっきのバナナ、最後の一本だったよな。
バナナ、買ってこよ。