薄 明 時 雨【 原神 】

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「あれは仙人の仙力だろ！小説とかに書いてあるみたいに…羽を草木に、唾液を滝とにって感じで、あの琥珀もきっと同じ原理なんだろ！」

「燕の巣、みたいなこと？」




　旅人が仙人に目を向けてそう言うと、仙人は「…そのような話は知らんが」とひとまずパイモンの話を否定する。「これら琥珀は私が植えた花だ」


　────踏山葵(とざんあおい)。
　そっと、そんな名前が私の頭に思い起こされた。今の話に何か関連付いていることに違いはないのだろうが、どんな意味合いを持つ文字列だったのかは出てこない。
　…まぁいいか。仙人の声に耳を傾けようと考えを絶つと、途端に「花の名は踏山葵という」…と、仙人が測ったかのようなタイミングで言った。

　どういう、ことだろう。仙人の領地に咲く花など、私が知る由もないはずだ。
　それなのに私は知っていた。しかもただ知っていたというわけではない、思い起こされた、のだ。この場に対してこれと言った鮮烈な記憶があると言うわけでもなく、忘れたいと思って塞ぎ込んでいたわけでもないのに。
　まさかこれも、淑女様の施しか何かだろうか？…いや違う、それならどうして円滑に物事(けいかく)を進める為の手助けに私を選んだのかが曖昧になる。
　淑女様は、自分の判断には必ず意味を持たせる人だ。効率的に動き、目的を遂行する…正に愚人衆(ファデュイ)の構成員が目指すべき鑑なのである。

　それじゃあ、どうして。より深まる疑問が、私の中でどんどんと膨らんでいく。
　もしかしたら削月築陽真君が私の名を呼んだことも関係があるのかもしれない。もしかしたら公子様が私を旅人の監視役に付けたことも関わりがあってかもしれない。もしかしたら客卿(かっけい)殿の、最後のあの表情だって…



　もしかしたら、もしかしたら、もしかしたら。まとまらなくなってしまった思考を一度リセットするように、「…A」と旅人の声が頭に響く。
　さっと私の頭が現実へ抜け出して、顔を上げた。「…すみません、踏山葵とやらがなんだか興味深くて」仙人の話はもう終わりを迎えていたらしく、目の前にいた背高の鳥はどこかへ飛び去っていったようだった。

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