聖アメジスト学園のお嬢様達 (ページ29)

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そっと反省。ページ29

「今渡したしおりに各自しっかりと目を通す事。琳は担当の居ないお嬢にしおりを渡すのを忘れないでね」

それじゃあ皆自分の仕事に戻って。そう私が言い終えたのを見るや否や、大きな声ではいと言い皆散り散りになっていく。私は一応長であるため、最後の一人が退出したのを見届けてから部屋に鍵をかけた。

腕時計を見ると太い針は丁度5を指していて、窓から差し込む光も橙を帯びているように見えた。

執事達が真面目に勉強を教えているかを見るためその場を離れようとした直後だった。

「伊織さん！！」

あげた顔についている私の二つ目が、突進するような勢いで抱き着いてきた青い髪の青年を映しこんだ。無論紅葉の時と同様、執事として廊下を走る行為は許し難いものであるため、右手を斜め上にあげて構えた。

「ただいまぁ！っいったぁー！！」
「執事の癖に廊下は走らないの。それに抱きつかない。服が台無しだよ。あとえーっと、あぁおかえりなさい」

頭に浮かんでいた言葉を次々に吐き出す。
すると美由斗は幼げにむすっと頬を膨らませて不満そうにした。見れば綺麗な水色の目にはうっすらと涙が浮かんでいる。…力の加減を間違えたか。

しかしそうではなかったようで、どうやらおかえりなさいという言葉を最初に言って欲しかったらしい。

相も変わらず思考は幼いままの様だ。「普通は、おかえりなさい！服が台無しだからあんまり抱きつかないでね、とかでしょ！？」なんて大袈裟な一人芝居をして私に訴えかけている。適当に言葉を返すと、今度は眉を八の字にして泣きながら走り去っていった。途中、何に躓いたのかは知らないけれど体制を崩しかけて。

だから走ったらダメだって言ったのに。

でも、まあ。

彼にはもう少し甘い言葉をあげた方が良かったのかもしれない。あそこまで感傷的になられると正直こちらも傷ついてしまうし、少し可哀そうだったか。
いくら私の次に年長だと言っても、あの性格じゃ相当ダメージを受けたのではないだろうか。

ああ、考えれば考えるほど後悔の念が強くなっていく。
…弟分は可愛がるべきなのか。

「ちゃんと、おかえりって言ってあげないと」

誰に言った訳でもない言葉を呟いた私は、様子見のついでに美由斗を探す事にした。