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櫻「時間大丈夫？」
「機材の故障で開始は予定より20分ほど遅れるってさ。そうじゃなかったら余裕で遅刻」
櫻「危ねぇー」
「道が混んでるため到着遅れるって言っておいた」
櫻「口裏合わせろってことか」
言葉とは裏腹に道は空いている。
この調子ならちょうどいい時間に着きそうだ。
櫻「Aってそういうとこあるよな」
「前の会社では営業やってましたから。言い繕うことは人並みにはできますよ」
櫻「ずる賢いっていうかなんていうか」
「そこ『賢い』だけでいいから」
翔は窓から夕焼けに染まった薄紅の空を見上げながら聞いてきた。
櫻「…前、営業やってたんだ」
「うん」
櫻「…そっか」
何か続けようとした気がして耳をすませたが、車のウインカー音が聞こえただけだった。
翔は「着いたら起こして」と言って目を瞑った。
翔が聞きたかったのは、おそらく、
私が前の会社を辞めた理由だろう。
私は自分の暗い過去を、今でも引きずっていることに気づいたー。
以前勤めていたのは、大手2社には及ばないものの、国内でも有数の広告代理店だった。
私は営業部門に所属していたが、一連のプロジェクトはマーケティング部門等からも人材を集め、チームで動くのが基本だった。
クライアントさんの要望を受け、チームで考案した企画を他社との合同プレゼン、いわゆるコンペで代表してプレゼンするのが私たち営業の役割だった。
私は営業の中でもそこそこの実力を発揮していて、コンペでもかなりの確率で契約をもぎ取ってきた。
佳乃の働くファションブランドの広告を手がけたこともあった。
数多くのクライアントに出会ってきたが、その中の1人が、あの人だったー。
「翔、着いたよ」
櫻「ん…。ふぁぁ、…がっつり寝たわ」
「がっつり寝てたわ」
櫻「ありがとう。じゃ、行きますか」
「はーい」
伸びをしながら歩く翔の背中を見ながら、私はふと思い出しかけた暗い過去を、意識の向こうに追いやった。
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作者名：なつらい | 作成日時：2018年8月5日 17時
