【QK】12時45分

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　全部、悪い夢だったらいいのに。今日も明日も何事も無く、普通に世界が続いてくれれば。
　なのに、あと僅かな時間で全て終わってしまうのだ。夢なんかじゃない、これは現実で何処にも逃げられない。


「……ごめんな」


　彼女の嗚咽が小さくなった頃、ようやく絞り出せたのは謝罪の言葉だった。腕の中でピクリと反応した彼女が、泣き腫らした顔で俺を見上げる。


「どうして航平が謝るの」
「俺が……何も出来ないから」


　憧れたヒーローのように地球の滅亡を救う事なんて出来ない。結局俺はただの大学生で、圧倒的な力の前には何も出来ないのだ。


　それどころか好きな女の子の心ひとつも守れないで。彼女がこんなに追い詰められるまで何も出来ないで。あまりにも自分が惨めで情けなくて、膝の上で拳をきつく握り締めた。爪が食い込んで皮膚を裂かんばかりの勢いで握られる拳に、そっと小さな手が重ねられる。


「でも、航平は止めてくれたよ。馬鹿な私の事を」
「っ……、A……」
「自分からあんな事したら、天国に行けなくなっちゃうもんね。そしたら死んだ後で航平と会えなくなっちゃう。だから航平が止めてくれて良かった」


　涙なんて枯れ果てるほどに泣いているのだろうに。透き通った両目からぽろぽろと絶えずに雫を零しながら、それでも、彼女は笑った。


「航平はヒーローだよ。私にとってずっとずっと、誰よりも眩しくて誰よりも格好いい、私だけのヒーロー」


　ずっとなりたいと思っていた。世界を、誰かを、彼女を助ける強いヒーローに。
　最後の最後でも、なれたのだろうか。俺は。

　

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