【QK】12時45分

2：ALIVE（k-chan） ページ7

「うわ、ヤバ……」


　とうとうスマートフォンの電波が駄目になった。予定ではとっくに彼女の家に着いている筈だったのに、大幅な遅刻をしてしまい、その旨を連絡しようとしたらこれだ。


　そもそも本当は朝九時頃には彼女と合流している筈だった。それがどうしても外せない用があって二時間ほど遅れ、更に駅に着いたら電車が動いていなかったという流れだ。そんな訳で俺は今、最寄り駅から彼女の家までの道を走っていた。


　せめてもっと早く家を出ていれば、と思うが、どうしても諦めきれなかったのだから仕方ない。走る自分の右拳を見遣る。その薬指には最近無かった銀色の輝きがあった。失くしていた指輪を、今日になってやっと発見する事が出来たのだ。


　だって最後の日にぐらい、この指輪を身に着けていたくて。


「っ、はぁ……ッ」


　中学高校の頃はテニス部で随分鍛えていたものだけれど、大学に入ってからすっかり運動をしなくなった所為で、今の俺からは体力というものが欠けていた。長く走った所為で若干の吐き気を催しつつも、ようやく彼女のマンションに辿り着く。


　オートロックを解除して部屋の前までやってくると、まだ整わない呼吸をどうにか落ち着かせつつ、インターホンのベルを鳴らした。――返事は無い。


　ドアノブを掴んで回すと、鍵は掛かっていないようだった。


「A？」


　ドアを開け、中に向けて呼び掛けるがやはり返事は無かった。けれど鍵は開いているのだから彼女は室内に居る筈だ。


「…………」

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