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世界が終わるだなんてあまりにも非現実的な話で、正直、未だに信じられない。残り僅かな時間でこの世界は終わりを迎えてしまう。
「A……」
「ずっと夢を見てるみたいだなって思ってたの。だって、現実感がまるで無いんだもん」
甘えるように、僕の肩口に彼女が頬をすり寄せてくる。すぐ間近に見える長い睫毛が震えているのが分かった。普段から割と甘えん坊な所のある彼女だけれど、今日のそれは違う。単に甘えているのではなく、その奥に恐怖が見え隠れしているのが分かるから。だったら、僕に出来る事は――。
「じゃあ、きっと夢だ」
少し強い口調で言い切ると、彼女が不思議そうに顔を上げた。
「え……?」
「夢だよ、A」
「何言って……」
「だから、起きたらデートに行こう」
あと少しでこの世界は滅んでしまう。それは一介の大学生である僕には、もうどうしようも出来ない事だ。だけどせめて、彼女の恐怖をほんの少しでも和らげる事が出来るのなら。
あからさまに怪訝な顔をしていた彼女だが、僕の気持ちを理解してくれたらしい。「そっか」と少しだけ悲しそうに微笑んで、もう一度僕の肩に頬をすり寄せてきた。
「じゃあ折角なら旅行がいいな。凄く怖い夢だから、目を覚ましたらしばらくは、よしくんとずっと一緒に居たい」
「旅行かあ。それもいいね。美味しい物いっぱい食べよう」
「うん。美味しくて、あと映えるやつね」
笑って語りながら、ぎゅっと手を強く握り合う。この後、どんな目に遭ったとしても、決して離れないという意志を込めて。
「ねえ、よしくんは何処に行きたい?」
夜でもないのに暗くなった空が、まるで落ちるように迫ってきていた。悲しみも恐怖も全て呑み込まれていく。程なくして終焉が訪れるだろう。
そして何もかもが消えゆく世界で。
「Aと一緒なら、何処へでも」
もう二度と戻る事の無い日常を、それでも夢見るのだろう。
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奈都(プロフ) - さっちいさん» 名作第一位更新とのありがたいお言葉で恐縮です。一年半以上も前に書いた作品ではありますが、こうして新たに読んで頂けてとても嬉しいです! (2021年8月6日 23時) (レス) id: 1ea9b7d420 (このIDを非表示/違反報告)
さっちい(プロフ) - 私の中の名作第1位更新しました…すごく好きな作品です! (2021年7月29日 10時) (レス) id: ebeed9cbc6 (このIDを非表示/違反報告)
奈都(プロフ) - 清華さん» ありがとうございます。悲しい終わりではあるのかも知れませんが、それでも各二人にとっての幸せの形を描いたつもりでいます。泣いて頂けたら嬉しいな、と思いながら書いていたので本望です…! (2020年4月8日 22時) (レス) id: 1ea9b7d420 (このIDを非表示/違反報告)
清華(プロフ) - 一気に7人分をworld endを見ますた...心痛いですよ、めっちゃめちゃ泣きました、もうきついです(笑) (2020年4月1日 16時) (レス) id: 1c085b2c66 (このIDを非表示/違反報告)
Hërø(プロフ) - 奈都さん» 夢は大丈夫だったのですが時々それぞれのメンバーの最後を思い出してグッときてます笑 (2020年1月3日 1時) (レス) id: 7ab3904f14 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:奈都 | 作成日時:2019年12月9日 20時