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 二人並んで机に座り、肩を寄せ合う。身体の右側に彼女の温もりを感じていると、何だか妙に安心する。誰かの体温はこんなにも温かくて胸に響くものだったろうか。


 どうしてこの温もりをずっと拒んでいたんだろう。全ては俺の臆病さが招いた事なので自業自得ではあるのだが、もう少し早く勇気を出していたら。そうすれば、もっと違う形の二人の姿もあったかも知れないのに。


「A」
「はい?」
「ごめん」
「どうして謝るんですか」


 だって私こんなに嬉しいのに――と彼女が続ける。最早、俺の謝罪なんて何の意味も成さないのかも知れない。謝る事が罪滅ぼしになるだろうという、ただの俺の自己満足に過ぎないのだ。


 けれど、最後にこうして想いを通わせられただけ、まだ良かったのかも知れない。まあその所為で、彼女と一緒に生きたいという希望をこの期に及んで抱いてしまって、でもそれは無理で、どうしようもない無力感と絶望に襲われてはいるけれど。


 不意に彼女の小さな手が俺の手の甲に重なった。手の向きを反転させて手のひらを上に向けると、彼女がきゅっと指を絡めてくる。繋いだその手はとても温かくて、俺たちが今、間違いなく生きている事を伝えていた。


「川上さん」
「ん?」
「私、今、世界で一番幸せです」


 本当に世界中の幸せを独り占めしたように、晴れやかな顔で彼女は笑う。花が咲いたようなその笑顔が、俺の心を優しく解していくのを感じた。


 夜でもないのに暗くなった空が、まるで落ちるように迫ってきていた。悲しみも恐怖も全て呑み込まれていく。程なくして終焉が訪れるだろう。


 そして何もかもが消えゆく世界で。






「……俺もだよ」






 絶望の中に、今こそ、俺たちは確かな幸福を掴んだのだ。



 

7:死がふたりを分かつまで(izw)→←▼



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奈都(プロフ) - さっちいさん» 名作第一位更新とのありがたいお言葉で恐縮です。一年半以上も前に書いた作品ではありますが、こうして新たに読んで頂けてとても嬉しいです! (2021年8月6日 23時) (レス) id: 1ea9b7d420 (このIDを非表示/違反報告)
さっちい(プロフ) - 私の中の名作第1位更新しました…すごく好きな作品です! (2021年7月29日 10時) (レス) id: ebeed9cbc6 (このIDを非表示/違反報告)
奈都(プロフ) - 清華さん» ありがとうございます。悲しい終わりではあるのかも知れませんが、それでも各二人にとっての幸せの形を描いたつもりでいます。泣いて頂けたら嬉しいな、と思いながら書いていたので本望です…! (2020年4月8日 22時) (レス) id: 1ea9b7d420 (このIDを非表示/違反報告)
清華(プロフ) - 一気に7人分をworld endを見ますた...心痛いですよ、めっちゃめちゃ泣きました、もうきついです(笑) (2020年4月1日 16時) (レス) id: 1c085b2c66 (このIDを非表示/違反報告)
Hërø(プロフ) - 奈都さん» 夢は大丈夫だったのですが時々それぞれのメンバーの最後を思い出してグッときてます笑 (2020年1月3日 1時) (レス) id: 7ab3904f14 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:奈都 | 作成日時:2019年12月9日 20時

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