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「実はAさんにプレゼントがあってさ」
「プレゼント?」
「そう。喜んで貰えるか分からないけど」
言いながら、用意していた袋の中から真っ白な『それ』を取り出す。ふわりと柔らかな感触。
「実はこれを用意してました」
「わあ……!」
清らかな純白の色をした『それ』は、ウェディングベールだった。
指輪も無い。ドレスも無い。ブーケも無い。バージンロードも無ければ神父も牧師も居ない。でも、せめてベールぐらいなら――とこっそり準備してきたのだった。
「結婚式しようよ。二人きりだけど」
そう言うと彼女は目を円くして、それから笑顔で頷いた。本当に嬉しそうに顔を綻ばせるので、俺まで嬉しくなってしまう。
「あ、そうだ。結婚式なら、指輪の代わりにこんなのはどう?」
言いながらバッグを手に取った彼女が、中からソーイングセットを取り出す。小さなケースを開けて引っ張り出したのは、赤い裁縫糸だった。
「結婚指輪を左手の薬指に嵌めるのは、心臓に繋がる血管がある、って考えられてたからだっけ? だったら赤がいいよね、きっと」
これをお互いの左手の薬指に結び合おう、と彼女は言う。成る程、面白いかも知れない。ミニはさみをシャキシャキとさせる彼女は随分と楽しそうだ。
「いいね。でも、赤い糸なのに切っちゃうの?」
「……あ、もしかして不吉?」
「んー、まあほら、俺らの赤い糸は無線で繋がってると思えば」
「無線の赤い糸ってなんか凄い矛盾な感じするね。なんかちょっと嫌だから、やっぱり繋げておこうっと」
声を上げて笑いながら、彼女が糸を長めに切った。この糸が俺たちにとって永遠の誓いの証となる。
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奈都(プロフ) - さっちいさん» 名作第一位更新とのありがたいお言葉で恐縮です。一年半以上も前に書いた作品ではありますが、こうして新たに読んで頂けてとても嬉しいです! (2021年8月6日 23時) (レス) id: 1ea9b7d420 (このIDを非表示/違反報告)
さっちい(プロフ) - 私の中の名作第1位更新しました…すごく好きな作品です! (2021年7月29日 10時) (レス) id: ebeed9cbc6 (このIDを非表示/違反報告)
奈都(プロフ) - 清華さん» ありがとうございます。悲しい終わりではあるのかも知れませんが、それでも各二人にとっての幸せの形を描いたつもりでいます。泣いて頂けたら嬉しいな、と思いながら書いていたので本望です…! (2020年4月8日 22時) (レス) id: 1ea9b7d420 (このIDを非表示/違反報告)
清華(プロフ) - 一気に7人分をworld endを見ますた...心痛いですよ、めっちゃめちゃ泣きました、もうきついです(笑) (2020年4月1日 16時) (レス) id: 1c085b2c66 (このIDを非表示/違反報告)
Hërø(プロフ) - 奈都さん» 夢は大丈夫だったのですが時々それぞれのメンバーの最後を思い出してグッときてます笑 (2020年1月3日 1時) (レス) id: 7ab3904f14 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:奈都 | 作成日時:2019年12月9日 20時