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「平然としてるように……見えるんですか?」


 微かに震えたようなその声にハッとして彼女を見る。酷く傷付いた顔だった。


 彼女のこんな顔は見た事が無かった。今まで俺がどんなに適当にあしらっても、告白を断った時ですらこんな顔はしなかったのに。


「Aさ……」
「もっといっぱい生きたかったし、色々したかったし。出来る事なら川上さんに好きになって貰って、川上さんと色んな所に行って、一緒に美味しい物食べて、嬉しい事も悲しい事も全部、これからずっとずっと一緒に経験していきたいって思ってたのに」


 いつもはつらつとした彼女の声が震えている。くしゃりと今にも泣きそうな顔で、それなのに口元には笑みの形を作って――その健気さに今頃ようやく気付くなんて、俺はどれほど馬鹿なのか。


「こんな呆気ない結末。怖くない訳が無いじゃないですか……」


 消え入りそうな声で紡がれた言葉は、間違いなく彼女の本心だった。それが本心だと分かっているからこそ、恐怖している事を分かってしまったからこそ、俺は彼女に何も言えなくて、その顔を見る事すら後ろめたい気持ちになり、目線を床に落とした。数秒の沈黙が何十秒にも感じられる。


「……ごめんなさい。私なんか来ても、川上さんの邪魔になるだけだって分かってたのに。本当にこれで死んじゃうなら、どうしても最後に川上さんに会いたくて」


 ――どうして。


「川上さんに会えて良かったです。今日も……これまでも、ずっと」


 ――どうして、俺なんかを、そんなに。


「じゃあ私行きますね。お邪魔しちゃってすみませんでした」


 彼女は何事も無かったかのように、いつもと変わらぬ笑顔を浮かべた。流石に作り笑いだと俺にも分かる。そのまま踵を返した彼女は教室の出口へと歩を進めていく。


 本当にいいのか? このまま彼女と別れてしまって。最後の最後にあんな顔をさせて。これまでずっと俺を好きだと言って、無碍にしても傍に居てくれた彼女と、こんな別れ方をして本当にいいのか?






 いい筈が――無いだろう。






「っ……、Aさん!」


 思わず彼女の元へと駆け寄り、細い手首を掴んで少し強引に引き寄せる。俺よりもずっと小柄な身体が腕の中に納まった。突然の事に驚いた様子の彼女だが、特に逃げ出そうとはしなかった。

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奈都(プロフ) - さっちいさん» 名作第一位更新とのありがたいお言葉で恐縮です。一年半以上も前に書いた作品ではありますが、こうして新たに読んで頂けてとても嬉しいです! (2021年8月6日 23時) (レス) id: 1ea9b7d420 (このIDを非表示/違反報告)
さっちい(プロフ) - 私の中の名作第1位更新しました…すごく好きな作品です! (2021年7月29日 10時) (レス) id: ebeed9cbc6 (このIDを非表示/違反報告)
奈都(プロフ) - 清華さん» ありがとうございます。悲しい終わりではあるのかも知れませんが、それでも各二人にとっての幸せの形を描いたつもりでいます。泣いて頂けたら嬉しいな、と思いながら書いていたので本望です…! (2020年4月8日 22時) (レス) id: 1ea9b7d420 (このIDを非表示/違反報告)
清華(プロフ) - 一気に7人分をworld endを見ますた...心痛いですよ、めっちゃめちゃ泣きました、もうきついです(笑) (2020年4月1日 16時) (レス) id: 1c085b2c66 (このIDを非表示/違反報告)
Hërø(プロフ) - 奈都さん» 夢は大丈夫だったのですが時々それぞれのメンバーの最後を思い出してグッときてます笑 (2020年1月3日 1時) (レス) id: 7ab3904f14 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:奈都 | 作成日時:2019年12月9日 20時

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