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「A……」


 今更何の励ましにもならない事は分かっているけれど、僕がついているという意思表示のように彼女の手を握る手に力を込める。


 それから一度だけそっと口付けた。こんな所でキスをするなんて、他に客が居ないからこそ出来る事だ。
 彼女を助けてあげる事は不可能だ。ただ、最後の瞬間を迎えるまで一緒に居る。そんな程度の事しか出来ない。


 それでもこうして手を握る事で、キスをする事で、僅かでも彼女の不安な気持ちを軽くしてあげられるのなら。幾らでもそうしてあげたいと思う。かつてこの場所で彼女が僕の心に寄り添ってくれたように、僕もまた、そうでありたい。


 ――ねえ、あの日の君の言葉に僕がどんなに救われたのか。きっと君は正しく理解をしていないのだろうけれど。君にとって僕の存在する意味が『絶対』なのだと言ってくれたあの瞬間、僕にとっても君の存在は『絶対』になったんだよ。


 行こうかと言って彼女の手を取り立ち上がる。薄暗い館内から外に出ると、目の前の水槽では何も知らないペンギンたちがのんびりと泳いでいた。ああ、平和だ。こんなにも平和なのに。


「……拓哉さん」


 静かに呼ばれた僕の名前。命の灯が燃え尽きるまでにあと何度、僕を呼んでくれる声を聞けるだろうか。


「きっと見つけてくださいね。生まれ変わった先の私を」
「見つけるよ。約束する」


 夜でもないのに暗くなった空が、まるで落ちるように迫ってきていた。悲しみも恐怖も全て呑み込まれていく。程なくして終焉が訪れるだろう。


 そして何もかもが消えゆく世界で。






「どんなに遠い未来でもどんなに遠い星でも、必ず君を見つけるから――待ってて」






 それでも、いつかの未来に想いを馳せるのだろう。



 

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奈都(プロフ) - さっちいさん» 名作第一位更新とのありがたいお言葉で恐縮です。一年半以上も前に書いた作品ではありますが、こうして新たに読んで頂けてとても嬉しいです! (2021年8月6日 23時) (レス) id: 1ea9b7d420 (このIDを非表示/違反報告)
さっちい(プロフ) - 私の中の名作第1位更新しました…すごく好きな作品です! (2021年7月29日 10時) (レス) id: ebeed9cbc6 (このIDを非表示/違反報告)
奈都(プロフ) - 清華さん» ありがとうございます。悲しい終わりではあるのかも知れませんが、それでも各二人にとっての幸せの形を描いたつもりでいます。泣いて頂けたら嬉しいな、と思いながら書いていたので本望です…! (2020年4月8日 22時) (レス) id: 1ea9b7d420 (このIDを非表示/違反報告)
清華(プロフ) - 一気に7人分をworld endを見ますた...心痛いですよ、めっちゃめちゃ泣きました、もうきついです(笑) (2020年4月1日 16時) (レス) id: 1c085b2c66 (このIDを非表示/違反報告)
Hërø(プロフ) - 奈都さん» 夢は大丈夫だったのですが時々それぞれのメンバーの最後を思い出してグッときてます笑 (2020年1月3日 1時) (レス) id: 7ab3904f14 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:奈都 | 作成日時:2019年12月9日 20時

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