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そうだ、と思い出して鞄の中を漁った。昨日河村に頼んで分けて貰った『それ』を取り出してテーブルの上に置くと、彼女が怪訝な顔をする。
「それ何?」
「睡眠薬」
「なんでそんな物」
「河村に貰った」
この睡眠薬は河村の物だ。病院で処方されているそれを、どうしてもと言って昨日こっそり分けて貰った。ドラッグストアで売っているような睡眠改善薬よりも、病院で処方されている物の方が効果は強い筈だから。
キッチンへ行ってコップに水を注いでくる。その間も彼女は何処か胡散臭そうな顔をして、錠剤のシートを見つめていた。
「A。口あけて」
「……やだ」
「どうして」
「だって、何したって変わらないよ」
これを飲んで眠ったとして――世界が終わってしまうという現実は、もう止められない。そんな事は分かっている。それでも。
「仕方ないな」
錠剤を口に含み、水を一口含んでから彼女に口付ける。一気に流し込むと、ん、とくぐもった声が聞こえて、それから彼女の喉が鳴った。ちゃんと飲み込んでくれたらしい。
ああ飲んじゃった――と困ったように呟いた彼女は、少しだけ恨みがましい目で俺を見つめて、それから諦めの混ざる顔で笑った。
「これで私が寝ちゃったら、寝てる間に全部終わるのかな」
「……大丈夫。落ち着いたら、ちゃんと起こしてあげるから」
きっと、その目覚めは永遠に来ないけれど――。
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奈都(プロフ) - さっちいさん» 名作第一位更新とのありがたいお言葉で恐縮です。一年半以上も前に書いた作品ではありますが、こうして新たに読んで頂けてとても嬉しいです! (2021年8月6日 23時) (レス) id: 1ea9b7d420 (このIDを非表示/違反報告)
さっちい(プロフ) - 私の中の名作第1位更新しました…すごく好きな作品です! (2021年7月29日 10時) (レス) id: ebeed9cbc6 (このIDを非表示/違反報告)
奈都(プロフ) - 清華さん» ありがとうございます。悲しい終わりではあるのかも知れませんが、それでも各二人にとっての幸せの形を描いたつもりでいます。泣いて頂けたら嬉しいな、と思いながら書いていたので本望です…! (2020年4月8日 22時) (レス) id: 1ea9b7d420 (このIDを非表示/違反報告)
清華(プロフ) - 一気に7人分をworld endを見ますた...心痛いですよ、めっちゃめちゃ泣きました、もうきついです(笑) (2020年4月1日 16時) (レス) id: 1c085b2c66 (このIDを非表示/違反報告)
Hërø(プロフ) - 奈都さん» 夢は大丈夫だったのですが時々それぞれのメンバーの最後を思い出してグッときてます笑 (2020年1月3日 1時) (レス) id: 7ab3904f14 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:奈都 | 作成日時:2019年12月9日 20時