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前撮りの時に彼女が着たウェディングドレスは、結婚式の本番で着る物とは違うデザインだった。
彼女によく似合う大人びたマーメイドラインのドレスと、案外可愛い物好きな彼女が憧れるフリルたっぷりのお姫様のような形のドレス。衣装決めの際、彼女がその二着で散々悩んで唸っていた所、前撮りと本番で別デザインを着ればいいという話になったのだ。
一生に一度なのだから憧れるデザインの物を着たい。でも、自分が一番映える衣装も捨て難い。そんな二択を無理に絞らずに済んで、衣装決めの帰り道で「本当に良かった」と何度も繰り返す彼女は未だ記憶に新しい。
「これなんか特に凄くない? アングルなんだろうけど、俺ら二人とも八頭身ぐらいに見えなくもないよ」
「ほんと。プロって凄いよねぇ。……あ、これ。疑惑の抱っこのやつ」
ページ送りの手が止まる。一見、俺が彼女を抱き上げているように見えなくもないそれは、実際の所、隠れる位置に台を用意してその上に彼女を立たせ、如何にも俺が抱き上げていますという雰囲気にした写真だった。本当はお姫様抱っこでも出来ればもっと様になったんだろうが、ジムにも通っていない俺がそこまで筋肉を育てるのは無理だった。
ちなみに彼女の名誉の為に言うが、決して彼女が重いのではない。伊沢や須貝さんなら恐らく余裕で抱き上げられただろう。
「こうして見ると、全然分かんないもんだね」
妙に感心した口調で彼女が言った後、データの番号を控え始めた。どうやら使用写真の候補の一つになったらしい。
それから彼女は気になる写真のピックアップを続け、俺もPCを開いてメールの確認を始めた。プランナーから来ていたメールには、当日使用する席次表のデータが添付されている。謎解きが趣味の俺たちらしく、席次表にはちょっとした謎を仕込ませて貰った。更に、披露宴での余興は山本をメインとしたQuizKnockの面々に頼み、席次表の謎と関連した謎解きイベントを披露して貰う予定だ。
もしも三年前のあの日、参加した脱出ゲームのグループに彼女が居なかったら。或いは俺が居なかったら。今、こうして肩を並べている事も無かったのかも知れない。つくづく自分は運が良いなと思う。勿論、運だけじゃなくて結果に見合う努力は充分しているつもりだけれど。
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奈都(プロフ) - のんさん» コメントありがとうございます。それぞれの気持ちに寄り添って書いてきたつもりではあるので、感情移入して頂けているととても嬉しいです。やっぱり最終的にはきっちりゴールインしてほしい…!と思いつつ亀の歩みですが、これからも見守って頂けると幸いです。 (2021年10月1日 22時) (レス) id: 1ea9b7d420 (このIDを非表示/違反報告)
のん(プロフ) - 更新に歓喜です‼︎Gravityから読ませていただいている側としては感情移入しすぎて、若干泣きそうになりましたが、結婚考えてくれてたんだとホッとしました(笑)何度読み返してもキュンとできる奈都さんの小説、、私の元気のもとです! (2021年9月26日 2時) (レス) @page31 id: 1f7bb03b81 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:奈都 | 作成日時:2021年1月31日 13時