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ぬるいシャワーで汗を流しながら、俺は脳内でこれから先の予定を改めて確認し直していた。
QuizKnockが今のオフィスに引っ越してから二年半。これまでよりも広いビルに引っ越す事が決まった。引っ越しは盆明けに行われる予定で、そろそろ新オフィスの内装工事も始まる事になっている。
この引っ越しによって、彼女の部屋からオフィスへの距離は確実に遠くなる。何だかんだで週の半分ぐらいを過ごしている彼女の部屋から毎日通う会社への距離が遠くなってしまうのは、俺としても少々辛い所がある。
だからと言う訳ではないのだが、俺も流石にそろそろ本気で引っ越しを考えるタイミングではないだろうか、と思った訳だ。仕事人間だと揶揄されるかも知れないが、自宅と会社の距離は縮まっている方が色々と楽である事に違いは無い。さっきだって愛車のロードバイクを漕いで、オフィスからこの部屋まで移動してきた訳だが、真夏の今はこの数分で汗だくになってしまうのだ。
だから、近ければ近い方がいいのだと思う。俺の部屋も――彼女の部屋も。
なんて事を考えながらバスルームを出ると、小さめのダイニングテーブルには夕飯が並んでいた。平皿に入ったのはブリの照り焼きだろうか。魚も食べるかと問われたので首を横に振ると、最初から俺の返事を分かっていたかのように、サッとラップをかけて冷蔵庫に運んでしまった。彼女の明日の朝食になるのだろう。
なかなか美味しく出来たでしょ、と自慢げに言われながら小鉢に分けて貰ったナスの南蛮漬けは、しっかりと味が染みている。食事面はかなり節制している方なのだが、これはおかわりを貰ってしまおうか。
「Aさん、ナスめっちゃ美味い。もうちょっと貰っていい?」
「はいはい」
頷いた彼女は、作り置きとして既に冷蔵庫に仕舞っていたタッパーを取り出してくる。
「ありがと。あとさ、もう一個あって」
「んー?」
「俺、今回本気で引っ越し先の物件探してるんだけど」
「そうなんだ」
あまり本気にしていない風の返事が返ってきた。どうせまたいつも通り、結局面倒臭いとか時間が無いという理由でやめると言い出すと思われているのだろう。引っ越しを考えていると言い始めてから一年ぐらい同じ事を繰り返しているので、信用が無いのも仕方ない話だ。
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奈都(プロフ) - のんさん» コメントありがとうございます。それぞれの気持ちに寄り添って書いてきたつもりではあるので、感情移入して頂けているととても嬉しいです。やっぱり最終的にはきっちりゴールインしてほしい…!と思いつつ亀の歩みですが、これからも見守って頂けると幸いです。 (2021年10月1日 22時) (レス) id: 1ea9b7d420 (このIDを非表示/違反報告)
のん(プロフ) - 更新に歓喜です‼︎Gravityから読ませていただいている側としては感情移入しすぎて、若干泣きそうになりましたが、結婚考えてくれてたんだとホッとしました(笑)何度読み返してもキュンとできる奈都さんの小説、、私の元気のもとです! (2021年9月26日 2時) (レス) @page31 id: 1f7bb03b81 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:奈都 | 作成日時:2021年1月31日 13時