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どうやら俺に自慢するのを待っていたらしい。俺が頷いたのを確認してからブーケを解いた彼女は、用意していた一輪挿しに花を挿した。
「と言うか、拓司くんが一緒に買いに行ってくれてたんだよね? ありがとう」
「まあね。気付いてた?」
「昨日は全然」
「でも言い出したの俺じゃないよ。『お母さんにお花あげたいから内緒で行きたい』って言われた」
お父さん絶対お母さんに言わないでよ、と何度も繰り返す息子とは、男と男の硬い約束を交わしていた。去年まで「大きくなったらママと結婚する」と言っていたのが、今では幼稚園で同じクラスのヒナちゃんとやらにすっかり夢中らしいが、それでもやっぱり母親の存在は特別なようだった。
いいな、母親って。果たして父の日は覚えていてくれるだろうか。まあきっと忘れるだろうな、俺の子供だし。
「つーか、すまん。今日何にも出来なくて」
「別にいいよ。だって私、拓司くんの母親じゃないし」
「まあそうなんだけど。母さんの方もありがとな」
「どういたしまして。お義母さんから直接お礼の連絡あったよ。きっとAさんが選んでくれたんでしょう、って」
本日の仕事の合間、母親から連絡があった。お花とスカーフが届いた、ありがとう、でもAさんが用意してくれたんだと思ったからAさんに先にお礼を言っちゃった――と。流石、我が母親だ。身内の記念日に対しては特に気が抜け易い息子の性格をよく分かっている。
「何から何までいつも助かってます」
わざとらしく深々と頭を下げると、もう一度「どういたしまして」という声が聞こえた。
「さあ、今年の結婚記念日は何して貰っちゃおうかな。あ、ちゃんと一ヶ月前からアピールしていくから拓司くんは安心しててね」
そんなに記念日にこだわらないと言いつつも、忘れられるのが嫌なら事前にアピールしておけばいい、という姿勢の彼女は、ついつい記念日系を忘れてしまう俺の性格も熟知していた。上手に手のひらの上で転がされている気もするが、そもそも或る程度転がされておく方が楽なものだ。
「Aさん毎年アピールしてくるから、一度も忘れた事無いんだよな。俺の扱いをよく心得てる」
「何年拓司くんと付き合ってると思ってるの」
「今年で丁度、十年でございます」
ダイニングテーブルに置かれた花瓶は、しばらくの間、俺たちの心を和ませてくれそうだ。次の結婚記念日には、俺も花束でも買ってくるとしようか。
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奈都(プロフ) - のんさん» コメントありがとうございます。それぞれの気持ちに寄り添って書いてきたつもりではあるので、感情移入して頂けているととても嬉しいです。やっぱり最終的にはきっちりゴールインしてほしい…!と思いつつ亀の歩みですが、これからも見守って頂けると幸いです。 (2021年10月1日 22時) (レス) id: 1ea9b7d420 (このIDを非表示/違反報告)
のん(プロフ) - 更新に歓喜です‼︎Gravityから読ませていただいている側としては感情移入しすぎて、若干泣きそうになりましたが、結婚考えてくれてたんだとホッとしました(笑)何度読み返してもキュンとできる奈都さんの小説、、私の元気のもとです! (2021年9月26日 2時) (レス) @page31 id: 1f7bb03b81 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:奈都 | 作成日時:2021年1月31日 13時