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カーネーション(izw) ページ24

(かなり未来の話です)


「お母さん、はい」


 少しもじもじとした様子の愛息子は、後ろ手に持っていた物をスイと差し出してきた。一輪だけをブーケにしたピンクのカーネーションだ。そういえば今日は五月の第二日曜日だったか。


「わあ、可愛いカーネーション。お母さんが貰っていいの?」
「うん! あ、えっと、お母さんいつもありがとう!」


 文言を思い出したように言う姿に、思わず頬が緩んでしまう。


「こちらこそありがとう。母の日なんて、よく覚えてたね」


 最近の幼稚園では、母の日や父の日の前に両親の似顔絵を描く、なんて事はやらない所も多いらしい。去年も一昨年も夫が主導で何かしらしてくれたけれど、今年はこの子一人で考えてくれたのだろうか――と思った所で、そういえば、昨日は夫と二人で買い物に出掛けていた事を思い出す。きっとその時にこっそり買ってきてくれていたのだろう。


 今年になって呼び方が「ママ」から「お母さん」に変わり、幼稚園で好きな女の子も出来たようで、早くも少しずつ親離れの空気を感じ始めていたのだが、まだしばらくは私の可愛い王子様で居てくれるだろうか。


「ねえねえお母さん、母の日ってなんでカーネーション贈るか知ってる?」
「え、知らない。教えて教えて?」
「あのね――」


 そうして語ってくれた話は、恐らくかなり掻い摘んでいるのだろうが、私も知識として頭に入れているものだった。それにしても、とてもまだ幼稚園児とは思えないこの雄弁さは、父親の遺伝によるものだろうか。


「へぇ〜、そうなんだ。よく知ってるね」
「でしょ! 凄い?」
「凄い凄い。自分で調べたの?」
「お父さんが教えてくれた!」


 ふふんとドヤ顔をする我が子の姿は、やはり夫に似ている気がした。あと、嘘八百を並べ立てられていないで良かったとも思った。


 * * *


 芸能関係の仕事をしていると、日曜日なんてものは関係無い。という訳で仕事を終えて帰宅すると早々に、自慢げな顔でカーネーションの一輪ブーケを見せつけてくる妻が居た。我が子はもう既に眠りに就いてしまったらしいが、無事に母の日大作戦を遂行出来たようで何よりだ。


「おー、Aさんが俺以外の男に花を貰うとは……」
「ふふ、いいでしょ。世界一可愛い子がプレゼントしてくれたんだよ」
「その子って俺より可愛い?」
「勿論」
「じゃあ仕方ねえなぁ。今回は大目に見てやるか」



 

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奈都(プロフ) - のんさん» コメントありがとうございます。それぞれの気持ちに寄り添って書いてきたつもりではあるので、感情移入して頂けているととても嬉しいです。やっぱり最終的にはきっちりゴールインしてほしい…!と思いつつ亀の歩みですが、これからも見守って頂けると幸いです。 (2021年10月1日 22時) (レス) id: 1ea9b7d420 (このIDを非表示/違反報告)
のん(プロフ) - 更新に歓喜です‼︎Gravityから読ませていただいている側としては感情移入しすぎて、若干泣きそうになりましたが、結婚考えてくれてたんだとホッとしました(笑)何度読み返してもキュンとできる奈都さんの小説、、私の元気のもとです! (2021年9月26日 2時) (レス) @page31 id: 1f7bb03b81 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:奈都 | 作成日時:2021年1月31日 13時

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