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 伊沢が我が家を訪れたのは、それから二週間後の事だった。


「いらっしゃい。伊沢くん、お久しぶりです」
「お邪魔します。今日は宜しくお願いします」


 仕事終わり、オフィスから伊沢を伴って帰宅すると、玄関を開けた瞬間から既にいい匂いが広がっていた。司会用に色々話を詰めたいから伊沢を連れてきたい、と言った所、彼女はわざわざ有給を取って豪勢な夕飯の用意をしてくれていたのだ。


 元々彼女は、食生活に関して俺を甘やかす伊沢に対して若干の敵意を抱いていた頃もあったようだが、最近ではそんな素振りも無くなっていた。多分、一緒に暮らし始めてから、俺の食事をきちんと管理出来るようになって心にゆとりが生まれたのだろう。まあ、昼食や他の人と食事に行く時などは、相変わらず野菜から逃げる生活を送っているのだが。


 普段は俺と彼女の二人しか着く事の無い席に、今日は伊沢も座っている。ダイニングテーブルに並ぶ料理は普段よりも色彩が鮮やかで、その理由が伊沢が来るから――つまり野菜をふんだんに使っても構わないから、という事に気付き、少々申し訳ない気分になった。いつも彩り豊かな料理を作ってくれていると思っていたが、それでもかなり妥協していたらしい。


「これ、すげえ美味いっすね。家でこんなん作れるんだ」


 伊沢がやたら感動しているのはサーモンのテリーヌだ。野菜が入っていなければもっと良いのだが、全体の味がいいのと野菜をかなり細かくしているので、まあ俺でも食べられる。とは言え、あまり積極的に食べようとは思わないけれど。


「ありがと。結構簡単なんだよ、それ」
「成る程なぁ。最近の福良さんが、ちょっとずつ野菜食べられるようになってる筈だよ。Aさんマジで料理上手いわ」
「拳くんに健康になって欲しいっていう、私の涙ぐましい努力の跡が見えるでしょ」
「見える見える」


 彼女と伊沢がお互いに頷き合ったかと思うと、二人揃ってこちらを見た。正直、あまり心地好い視線では無いのだが、彼女の料理を褒められる事自体は何だか俺まで誇らしい気分になるので良しとしよう。


「つーか、Aさん的にはどうなんすか。福良さんの偏食ぶりはネタにしてもいいの?」
「全然いいよ。バンバン使ってやって」
「成る程ね。じゃあどっかに入れよう。鉄板ネタは笑いが取れる」



 

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奈都(プロフ) - のんさん» コメントありがとうございます。それぞれの気持ちに寄り添って書いてきたつもりではあるので、感情移入して頂けているととても嬉しいです。やっぱり最終的にはきっちりゴールインしてほしい…!と思いつつ亀の歩みですが、これからも見守って頂けると幸いです。 (2021年10月1日 22時) (レス) id: 1ea9b7d420 (このIDを非表示/違反報告)
のん(プロフ) - 更新に歓喜です‼︎Gravityから読ませていただいている側としては感情移入しすぎて、若干泣きそうになりましたが、結婚考えてくれてたんだとホッとしました(笑)何度読み返してもキュンとできる奈都さんの小説、、私の元気のもとです! (2021年9月26日 2時) (レス) @page31 id: 1f7bb03b81 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:奈都 | 作成日時:2021年1月31日 13時

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