【QK】トロイメライ -8-

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「マジで三日は籠るよ？」
「いいですよ。拓哉さんが一緒なら。あ、でも三日分の着替えだけ取りに行かないと」
「それは別に大丈夫じゃない？ 洗濯すればいいし、そもそもどうせ家から出ないんだったら僕の服着てればいい」


　彼女の家は僕の部屋から歩いてすぐの所にあるけれど、こうなってくるともう一歩も外に出したくない――と思ってしまうのは少々病的だろうか。


「じゃあ、今から一緒に冬籠りしましょうか。二人で」


　それでも彼女は嫌な顔一つせず、寧ろ当然のようにこうして笑ってくれるから。その度に僕の心は柔らかく解けていくのだ。


　決して強引じゃない。柔らかく優しく包み込む日差しで僕の不要な衣を、殻を少しずつ剥いでいく。この子が隣に居てくれるなら大丈夫だと、今までに何度思っただろう。


「……A」
「はい？」
「おいで」


　もう充分近い距離に居るけれど、もっと近くでその温かさを感じたくて手招きをする。素直に呼び寄せられた彼女の肩を掴まえて、背後から抱き留めるように腕の中に閉じ込めた。


　肩の高さで切り揃えられた艶やかな黒髪に鼻先を埋める。そのまま軽く匂いを嗅ぐような仕草をした所、「くすぐったいです」と身を捩って逃げようとするので、華奢な身体をしっかりと抱え直した。


「Aは温かいね」
「お子様体温って事ですか？」
「そうかも」
「もう。拓哉さん、馬鹿にしてます？」
「してないよ。……あ、でも手はやっぱりちょっと冷たいな」
「ふふ。じゃあ手は拓哉さんが温めてください。代わりに全体的に温める役をしますから」


　僕の手を取って指を絡め、肩口に頭を預けてくる。衣越しにもじんわりと彼女の体温を感じられて、暖房だけではどうにもならない冷えを癒していく。


　温めて欲しい。身体だけでなく心の奥深くまで。強い北風に吹かれて一人だと凍えてしまいそうな冬でも、君が居てくれるならきっと大丈夫だから。



　

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