【QK】トロイメライ -8-

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「高校生の時、電車で痴漢に遇った事があるんだけど……。その時に助けてくれた子が開成の子だったんだよね」
「へえ」


　母校の名前が出てきて軽く瞬く。彼女が高校生なら、俺も高校生か中学生の頃だろう。先程思い出した話を再度脳裏に思い浮かべる。俺の場合、助けた、なんてとても堂々とは言えない程度の話だけれど。


「俺も昔、電車で痴漢現場見た事あったよ。でも、その時は知り合いのフリして話しかけるのが精一杯だったな」
「そうなんだ。私の事助けてくれた子もそうだったよ。全然知らない子だったんだけど、久しぶりって話しかけてきてくれて……スタンダードな助け方なのかな」


　小首を傾げる彼女を見ながら、俺の脳には或る予感が渦巻き始めていた。


「Aさん、それいつの話か覚えてる？」
「え？ うーん、確か高二の秋だったと思う」
「って事は俺が中三か……」


　あの時はそれこそ丁度、俺は中三の年だった筈だ。年が合う、学校が合う、助け方も合う。これはもしかして――。


「拓司くん？」


　黙り込んだ俺を不思議に思ったのか、怪訝な顔をした彼女が名前を呼んでくる。あの時の女子高生の顔を思い出そうとするが、十年以上前の話であり、当然ながら覚えている筈も無かった。可愛い人だったな、という事は何となく覚えているけれど、それだけなのだ。


「……いや、まさかな。そんな偶然」


　俺の呟きを拾った彼女は、俺が言わんとしていた事をすぐさま把握したらしい。


「え、あの時の子が拓司くんだったってオチ？」
「いや、流石にそこまで都合のいい偶然は無いだろ」
「だよねぇ、流石にね」


　そんな都合のいい話がある筈が無い。きっと彼女を助けたという開成生は、俺じゃない別の誰かなんだろう。


「だけど、あの子が拓司くんだったらちょっと運命感じちゃうかも」


　そう言ってカラリと笑う彼女に、大っぴらに同意するのは恥ずかしい。


　でもまあ、もしもあの時の女子高生が彼女だったなら。つまり去年の春に俺を助けてくれた彼女を、十年以上前に俺が助けていたとしたら。助けて、助けられて、という俺たちの仲は実によく出来ている。それはそれで少し面白い縁だな、なんて思うのだった。



　

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