【QK】トロイメライ -8-

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　俺の手からカップを受け取った彼女は、ふーっと何度か息を吹きかけてから口をつけた。一口啜った後、カップをテーブルに置いて、何か考えるようにぐるりと室内を見渡す。


「何、まだ気になる所ある？」


　かなり綺麗にして貰ったのだが、まだ片付け足りないのだろうか。そう訊ねると緩く首を振った。


「そうじゃないんだけど、……んん、実はね」
「ん？」
「ちょっとだけ嫌だったの」


　一瞬だけ浮かんだ自嘲のような表情を見逃す事は無かった。掃除するのがそんなに嫌だったのかと思ったが、今日の掃除は彼女が自発的に始めてくれた事だ。何か別の話だろうか。


「駿貴さんの部屋の中って、現在の状態を知ってるのは私ぐらいじゃない。まあお友達も居るでしょうけど、そういうのはさて置くとして」
「うん」
「それが他の人、と言うか全世界の人に駿貴さんのプライベート空間を晒すんだなって……私以外の人もこの部屋の中を知っちゃうんだなって思ったら、ちょっとだけ、何て言うのかしら。妬けちゃった、みたいな。……ふふ。内緒よ」


　恥ずかしそうに肩を竦めて笑った後、彼女はそっと人差し指を口元に運んだ。何だその仕草は。可愛いぞ。けしからん。


「内緒って誰に」
「駿貴さんに」
「バリバリ聞いてますけど」
「だから聞かなかった事にして」
「またそういう無茶言うな〜」
「だって恥ずかしいんだもの。こんな子供みたいな嫉妬」


　いつもはキリッと凛々しい瞳を細めて、少しだけ幼い顔で笑う。誤魔化すようにマグカップを手に取ってコーヒーを啜る姿も可愛いなと思った。


「ちょっとぐらい妬いてくれる方が、男ってのは嬉しいもんよ」
「そう？」


　過度な束縛になると困るけれど、たまには嫉妬を見せてくれる方が愛されてる実感があっていいものだ。


「てか、もうちょっと早く言ってくれたら、俺も福良や河村みたいに生活感出ないように撮影したのに」
「別にそこまでしてくれなくてもいいのよ。と言うか、福良さんや河村さんは逆に凄いわよね。本当にずっとただの壁なんだもの」


　たまたまなのか考えての事かは知らないが、あの二人の自宅撮影における情報の無さは徹底している。まあ福良については恋人と同棲しているし、だからこそ余計に慎重になっているのかも知れないが。



　

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