【QK】トロイメライ -8-

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「だって普通の事じゃんね。アラサーの男に彼女が居るのなんて」
「それはまあ、そうなんだけど」
「勿論、明らかになる事によってAに何らかの害が行くってんなら、それはまた話が別だけどさ」


　たとえば一般人である彼女を特定してプライベートを暴くような真似をするなら、それは決して許されない。そうならない為に恋人の存在を隠すべきだと言うのなら、まあ頷かざるを得ないだろう。


　とは言え、そもそも社内の人間にもAとの交際は秘密にしている。皆『須貝に恋人が出来たらしい』という所で止まっており、それ以上は特に踏み込んで訊いてこようとはしない。だから俺もわざわざ話すような真似はしなかった。故に、恋人が居ると仮に公になったとしても、Aの情報まで特定されるとは考え難い。


　クローゼットを開けて、今しがた畳んだ袋をその中に放り込もうとすると、背後からストップの手が掛かった。とりあえず見えない所に放り込む、というのは片付けの出来ない人間の典型的な手法だそうだ。何とも難しい。






　それからしばらくして、彼女の尽力のおかげで室内もあらかた片付いた。とは言え、今後自宅での撮影機会がどれぐらいあるのかは不明だ。QuizKnockも今後はオフィスでの撮影に戻す事になっているし、折角綺麗にして貰っておいて何だが、片付いたこの部屋をお披露目するチャンスは無いかも知れない。


　ゴミ袋を一つに纏めている彼女の後ろを通り、キッチンへと向かう。お湯を沸かしてマグカップを二つ取り出した。


「A、コーヒー飲まない？」
「あ、欲しい」


　返事を確認してインスタントコーヒーの蓋を開け、中身を匙に掬ってカップに入れていく。しばらくして沸いたお湯をカップに注げば、香ばしい芳香がふわりと漂い始めた。


「砂糖は？」
「一本入れてくれる？」
「あいあい」


　ひらりと振って見せたスティックシュガーをマグカップの中に入れ、スプーンで軽く混ぜる。二人分のカップを手にリビングへ向かうと、ローテーブルの前に座った彼女は纏めた髪を解き、軽く手で梳いていた。


「はい」
「ありがとう」



　

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