【QK】トロイメライ -8-

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「拓朗くん、顔、強張ってる」
「そんな見て分かるほど？」
「うん、結構」


　別に彼女の前で下手に取り繕う必要は無い。それでも、あまり険しい表情は見せたくはない。薄く苦笑を浮かべると、彼女は何故だかフフンと得意げな顔をした。


「まあね、拓朗くんの憂い顔も嫌いじゃないよ。嫌いじゃない。全世界の川上ファンを代表して言うけど決して嫌いじゃないし、寧ろ結構有りなんだよね」


　全世界の川上ファンとやらはよく分からないが、この世界で一番俺に愛を注いでくれるのは彼女で間違いないとは思う。そんな彼女に憂い顔を嫌いじゃないと言われるのは、まあ決して嫌な気分ではないけれども。


「でもね、拓朗くんは笑ってるのが一番だよ」
「……よくもまあ、そんなクッサい事言う」
「えええ、酷い！ 励ましてるのに！」


　ぷーっと頬を膨らませた彼女だが、すぐに破顔した。次の瞬間、俺の手を握っていた小さな手が離れたかと思うと、ぎゅっと強く抱き締められる。首元に彼女の鼻先が埋められたのが分かった。スマートフォンが滑り落ち、ラグの上へと落ちた。


「大丈夫」


　俺を落ち着かせるように、勇気づけるように。シンプルなその言葉は、ストンと俺の心の中に入り込んで収まった。一体いつからだろう、彼女の声にこんなにも安心するようになったのは。彼女の言葉をこんなにも力強く思うようになったのは。


　どんなに道に迷いそうでも、深い闇の中に入りそうになっても、彼女の声がする方へ歩んでいけば大丈夫なのだ。まるでポラリスのように、いつだって俺を導いてくれる。


「……A」


　俺よりもずっと小さな身体に腕を回して、薄い背を覆うようにきつく抱き締め返す。すると呼応するように更に俺を抱き締めてから、ふっとその力が抜けた。首筋から顔が離れたかと思うと、今度はこつんと額同士を合わせられる。鼻先同士がぶつかりそうな程に近い距離は、キスの時ぐらいにしか経験が無い。でも、今はキスを求められている訳では無いようだった。


「大丈夫だよ」


　彼女はもう一度、同じ言葉を繰り返した。そして。





「いつだって傍に居る。この先ずっと、私が拓朗くんを幸せにする」





　――ああ、どうして。


　俺を抱く小さな身体には、信じられないほど大きな力があると思う。時に俺を包み込み、時に突き動かす。その根底にあるのは、何処までも真っ直ぐな気持ちだ。



　

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