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昨日の電話で私の様子がおかしかった事に、彼は気付いていたのだ。
こんなに誠実で優しい人なのに、私は嘘を吐いてまで彼を遠ざけて、指輪を失くしたという己の失態を隠そうとしていたのか。そう思うと、自分のあまりの不甲斐なさに涙が出そうになる。
くしゃくしゃになりかけた顔を見られたくなくて俯くと、彼が怪訝な様子で名前を呼んできた。
「A？」
その声音があまりにも優しくて、どうしようもなく泣きたくなる。込み上げる涙を止められなくて、目から雫が零れたのと同時に、
「ごめんなさい……」
と、私は謝罪の言葉を絞り出した。
「えっ。何、突然。どうかした？」
彼の声が明らかに狼狽したものに変わる。そりゃそうだろう。恋人が意味も無く、本当に突然泣きながら謝罪の言葉を口にしたのだ。私だって逆の立場だったら滅茶苦茶動揺するに違いない。
「指輪、失くしちゃったの……」
「え……」
「一昨日の夜、お風呂に入る前までは確かにあった筈なのに……。探したけど、どうしても見つからなくて……本当にごめんなさい……」
消え入りそうな声で謝罪の言葉を告げる。狭い玄関がシンと水を打ったような静けさに支配された。
僅かな静寂の後、はぁーっと尾を引く長い溜息が聞こえた。ああ、やっぱり彼を怒らせた。呆れさせたかも知れない。どうしよう――。
私がぎゅっと奥歯を噛み締めて、次に聞こえるであろう彼の言葉を待っていると、
「は〜。もうさ、マジ、ビックリさせんなって……」
再度の溜息を吐き出しながら、彼が突然、へなへなとその場にしゃがみ込んだ。いきなり目の前でしゃがみ込まれて、今度は私が狼狽える。一体どうしたと言うのか。
「えっ、こ、航平？」
「明らかに嘘の理由で会えないって言われたり、指輪外した状態で深刻な顔していきなり謝られたりさ。本っっ当にビビるから！ フラれるかと思うじゃん！」
「あ、ごめん……」
どうやら私が浮気しているか、別れ話でも切り出されると思っていたらしい。そんな筈無いと言うのに。寧ろ私は、逆の可能性を考えてずっと恐怖していたのに。
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奈都(プロフ) - みーさん» コメントありがとうございます。勿体無いお褒めの言葉を頂いて恐縮です！ここにあるのは初期の話なので、今見るとまだ解釈が甘い所があると感じるんですが、それも一つの過程かなと思っております…。kwmrさんのお話はこの先も続きますのでまた読んでやってください！ (2019年12月20日 23時) (
レス) id: 1ea9b7d420 (このIDを非表示/違反報告)
みー(プロフ) - 奈都さんこんにちは。素晴らしいですね……文章が本当にお上手です。まだkwmrさんのお話しか読んでいないのですが、雰囲気や口調などをよく掴んでらっしゃる……一つの小説作品としてもとても綺麗だなと思いました。ありがとうございます。 (2019年12月20日 0時) (レス) id: 4177d821c5 (このIDを非表示/違反報告)
奈都(プロフ) - あやかぽん。さん» こんばんは。コメントありがとうございます。一番好きだなんてありがたいお言葉を頂いて恐縮です…！一つ一つ愛情を込めて書いておりますので、今後も是非読んでやってくださいね！ (2019年12月2日 21時) (レス) id: 1ea9b7d420 (このIDを非表示/違反報告)
あやかぽん。(プロフ) - 奈都さんの書くizwさんが1番好きです(T^T)！毎日読み返しちゃいます。これからも楽しみにしてます！！ (2019年12月2日 16時) (レス) id: 2d6f2a11cf (このIDを非表示/違反報告)
奈都(プロフ) - りのさん» こんにちは。コメントありがとうございます。河村さんの掴み所の無い雰囲気がとても好きなので、どうにか表せていると良いのですが……。長編と呼ぶ量ではないのですが、河村さんのお話はまだ続きがありますので、また読んで頂けると嬉しいです！ (2019年5月12日 10時) (レス) id: e0f32efcb8 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：奈都
| 作成日時：2019年4月20日 21時
