九十八片 ページ7
視点無し
イタリア。その首都ローマ。
歴史的な建造物が立ち並ぶ一角に場違いな超高層ビルが聳える。
伝統的で風靡な観光スポットを一望できるビルの上階。
男はそれを楽しむよう、微笑を浮かべながら見下ろしていた。
「白蘭様。報告します」
男。白蘭のはるか後方。
静かにドアが開閉し、一人の下っ端が歩を進めながら声を張る。
白蘭の執務室はビルの一階層をまるまる使用した広大な部屋だ。
その広さと白蘭の風格に、並大抵の下っ端は足を震わせる。
「第14トゥリパーノ隊によりますとキャバッローネは思いのほか手強いようです。膠着状態に入ったとの報告が...」
「やっぱりね。第11のヴィオラはどうだって？」
報告に間髪入れず、予想通りだと白蘭は軽く首を傾げ、次の連絡を促す。
「は、はい、その件に関しても報告がありました。対象の潜伏している研究施設を襲撃しましたが、もぬけの殻で...嗅ぎ付けられすでに逃亡した模様です」
白蘭からの命に対し、膠着どころか完全に失敗したヴィオラの話題はできることならしたくないだろう。
背筋を震わせながらも下っ端の男は続ける。
「情報漏洩の理由については、襲撃前に匣を仕入れた武器商人が口を滑らせた可能性が高く...ヴィオラ隊隊長ルーナ氏は自刃してでも白蘭様に詫びたいと申しております」
「自刃」
「っ、はい」
白蘭がつぶやいた言葉に、男は肩を跳ねさせた。
だがそれを意にも介せず、白蘭は微笑む。
「いいよ自刃なんて。もとから彼がそう簡単に取れると思ってないし。ルーナチャンにはこう伝えておいて。「自刃なんてしなくていいから、本番に向けて部隊を増強しておいて。その方が僕への詫びになる」って」
下っ端の男は白蘭の声を聞きながら、一字一句間違えないように、手元の報告書にペンを走らせる。
「はっ。承知いたしました...またメローネ基地より入江正一氏が日本に到着したとの連絡が入りました」
「お...早いね正チャン」
その連絡は白蘭にとって、ローマの街並みよりも興味を引く吉報だった。
大窓から視線を外し、白蘭は振り返る。
「見ない顔だね」
「はっ！自分はこのたびホワイトスペルの第6ムゲット隊に配属された、レオナルド・リッピ、F級です！」
下っ端の男、レオナルドは電流が流れたようにピンと背筋を伸ばし、白蘭をまっすぐに見つめる。
その瞳は緊張しながらも、白蘭に対面できたことを光栄に思ってか、輝いていた。
「あーそーヨロシクね。様はつけなくていいよ暑苦しいから」
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作者名：雪兎(月兎) | 作成日時：2023年9月1日 21時
