百十四片 ページ23
カカッと小気味いい打音が鳴る。
それは他の球へ拡散しながら数を増やす。
耳を掠る雷鳴。
さっきまでとは比べ物にならない、火力を重視した密度にしてあるね。
一つでもまともに受ければ相当のダメージを負う。
その肌が痺れる風圧は、美しく鋭利な氷柱を思い起こさせて、僕の鼓動を高鳴らせる。
また球と球がぶつかり、互いに別の方向へ反射する。
一つの球が二つの球を弾き、またその球が別の球に触れ。
地面を突いた球は角度を変え僕の方向へ。
「生憎このショットの軌道には人が生きられるだけの隙間はないんだ」
避けた球が別の球を経由し、更に速く鋭い角度で切り込んできた。
顔と背を傾けつつ、次の次にどんな軌道をするのか観察する。
「へぇ」
反射と加速度に重きを置いた挙動だ。
確かにそういう運用をすれば、時間をかければかけるほど、受ける側が不利になる。
悪くないね。
だけど根本的に、彼女とは性質が異なる。
彼の匣は相手を追い詰めるための装置。
反射と加速を効率的にするため、球の個数は必要数。
集団を意識してるな。自分の周囲に被害を出さないようにわざと範囲を限定している。
対して彼女の手段は魅せるための前座。
数も速度も初弾から彼の匣を上回る。
圧倒的な力量差を表現し、彼女の本当の強さを隠すために。
僕は彼女と何度も遊んでるんだ。
僕をこんな甘い弾幕で仕留められる？
「それはどうかな」
既に軌道は見極め、適切なタイミングで前に走り出す。
「3番ボール」
彼の呟いた通り、僕はそれを避けられない。
「ぐっ」
「ビンゴ」
左腕で受けきる。多少の出血はあるが予想通り。
突破の勢いを殺さないまま、走り抜ける。
「確かに全ては避けきれそうにない。だから当たるのはこの一球だけって決めたのさ」
遠目で見ていても良い威力を持つ雷の炎だった。
無策で突っ込んだのでは彼らのように全身に傷を負うのも当たり前。
このビリヤードボールを受けるため、初めから左腕に防御の炎を集中させている。
「もう逃がさないよ」
「ふっ。それとこれとは話が別だ」
さっき僕の打撃をまともに食らった彼は、避けられる攻撃は避けようとする。
無暗に炎を消費したくないし、僕の雲の炎に合わせて密度を再調整するなんて、彼には一苦労だろうからね。
だから本来は防御できる牽制攻撃でも、二撃目を食らいたくない彼は、簡単に避けてくれる。
「残念だな」
「...」
避けた先に彼がいるとも知らずに。
「...な...なんだぁ...？こりゃあ...」
続く
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作者名：雪兎(月兎) | 作成日時：2023年9月1日 21時
