百十一片 ページ20
「んん...思い出したぜ。おまえはボンゴレ雲の守護者雲雀恭弥だ」
彼にとって他者の闖入は予想外の出来事のはずだけど、すぐに平静を取り戻したらしい。
僕の外見は割れているから、組織内で手配書か何かが回されているんだろう。顔を見ただけで彼は僕が僕だと判断できた。
「だったら？」
だけどそれがわかったところで、彼にとっては何のアドバンテージにもならない。
僕はそこの銀髪達と違って逃げ回ってたわけじゃないからね。
名前を言い当てようが、彼が僕がここにいるという情報を持ち帰ろうが、僕を動揺させる一手にはならない。
「おまえにはうちの諜報部の連中も手を焼いててね。ボンゴレの敵か味方か真意が掴めないとさ」
そのどちらでもないね。
ボンゴレは優秀な鴨だ。都合のいい時は活用する。ついでに面白い獲物が多いから味見もする。
あの小動物も僕にとっては組織のボスなんかではなくて、ただ興味深い便利な存在。
今回の作戦においても重要な役割ではあるから、生かしておいてるだけ。
「だが最も有力な噂によればこの世の七不思議にご執心だとか」
諜報部とやらがこそこそと嗅ぎまわってたのは把握してる。
だからあえて考察をかき乱すために、旅行もかねて関係のない場所に行ったりもした。
この世の七不思議に関連していることはあながち間違いじゃない。でも大半が彼女の仕業だって知っているからね。興味はもうない。
「匣のことを嗅ぎまわってるらしいな？」
「どうかな」
「得体のしれないものに命を預けたくないってのは同感だぜ」
さっきから鬼の首をとったかのように彼の知る情報を披露してるみたいだけど、本質に気づいていない。
確かに僕は匣の研究をしている。でも彼が今掲げた匣や僕が使う匣兵器が本当の対象じゃない。
もっと高次の存在。匣の始祖を僕は探ってる。
「で、こいつは本当には誰が何のためにどうやって創ったか真実はつかめたのか？」
僕が焦るとでも思ってるのかな。
余裕綽々と薄ら笑いを浮かべながら、情報を引き出そうとしている。
まあ、彼自身がこの状況に疑問を抱いているのだとしたら、中々良い観察眼を持っているかもしれないね。
匣がそもそも人の手には余るということ。
匣を創ることは本来できるはずがなかったということ。
何故今こうして僕たちが匣を使っているのか、違和感に気づける人間は少ない。
かといってそう易々と真実を教えるわけもないけど。
「それにも答えるつもりはないな。僕は機嫌が悪いと言ったはずだ」
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作者名：雪兎(月兎) | 作成日時：2023年9月1日 21時
