百十片 ページ19
三方を森に囲まれ、中央に堂々と座する本殿。
静寂に包まれた場所であるはずの境内に不快な電気音が響く。
玉垣を粉々に破壊し、木々を地面ごとえぐり取った跡。
想定よりも好き勝手に暴れてるね。僕の並盛で。
「そろそろ吐かねーと、とりかえしがつかねーぞ」
黒い隊服を着た男が銀髪の少年の首を掴み持ち上げる。
脱力する銀髪は全身から出血し、相当な傷を負っているのは目に見えた。
男の言う通り命にかかわる。
「だ...が...」
だけど銀髪は男の顔に向け自らの血を吐き捨てて、さらに挑発する。
彼は変わらない。
馬鹿の一つ覚え。一直線に突っ走って誰にでも噛みつくだけ。
でもその喧嘩腰は嫌いじゃない。
「なるほどそうかい」
男はビリヤードキューで銀髪を殴り倒す。
急所に入った。息はある。まあ僕は彼がどうなろうとどうでもいいけど。
「ならここで死んでいけ。おまえらをうちの白い連中にくれてやるつもりもないんでね」
男の両脇に現れる二匹の狐。雷の炎を纏う、彼の匣兵器か。
純度は悪くない。まあまあの実力者なのは分かった。
「雨の守護者も今楽にしてやる」
だけど、これ以上ここで騒がれるのは、ムカつくな。
指輪に炎を灯す。宝石にひびが入らないうちに匣に炎を注ぐ。
ビリヤードキューを振り上げた男に向け匣を開く。
飛び出していく棘の塊は、男の匣兵器を巻き込みながら轟音と砂埃を上げた。
「君の知りたいことのヒントをあげよう」
君達の作戦は知ってるよ。
失ったボンゴレリングを10年前から連れてくる。そしてトゥリニセッテを手に入れる。
僕はそれを利用する側だからね。前提条件くらい教えたって、痛くも痒くもない。
「彼らは過去から来たのさ」
顔をしかめる男。彼は黒だから知らされていないんだろう。
同情する気は毛頭ないから淡々と事実を告げる。
「僕は愚かじゃないから、入れ替わったりはしないけどね」
突撃した匣兵器を匣に戻す。
大人しく収まった匣兵器を少し撫でながらしっかりと閉じる。
こうしてあげないと、僕の炎に感化されて暴走しかねない。
「...何やらあんた詳しそうだな。だがドンパチに混ぜて欲しけりゃ名乗るのがスジってもんだぜ」
名乗る？これだけ許可なく並盛を傷つけておいて、正々堂々を強要するつもり？
「その必要はないよ。僕は今機嫌が悪いんだ」
黄色い鳥が僕の殺気を察知して飛び立つ。
清閑であるべき場所を、このまま野狐に食い散らかされるわけにはいかない。
「君はここで、咬み殺す」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 42人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：雪兎(月兎) | 作成日時：2023年9月1日 21時
