百六片 ページ15
「ってことは、その匣は嵐の属性でも雨の属性でもないってこと？」
「オレの霧属性でも開かなかった。次は沢田の番だ」
「その匣が大空の属性でもなかったら？」
単純化したことによりとりあえずは頭に入ったらしい。
それを瞬時に理解できれば今はいい。
「その心配はない。7種の属性の中で大空は唯一すべての匣を開匣できる。それが大空の長所だ。大空の波動を有する者はごく僅かしかいない」
オレの知る限りでは沢田とザンザス、跳ね馬ディーノ。
確認はしていないがおそらく白蘭も。そして、あの方も。
「やっぱり10代目は特別なんすよ！」
「やるなツナ！」
獄寺と山本が沢田を褒め称える。確かに大空を持つものは特別だ。
だからこそ、オレはこの匣をどうしても開けたい。
この匣にはアイツの何かが封印されている。
アイツの炎であるはずの雨でも開かないとなると選択肢は一つしかない。
「さあやってみろ」
「...こう？」
沢田が炎を灯し匣に注入した途端。
匣は開かずにひびが入っていく。ひびからは光が漏れ出し...崩れる...！保存用の匣が...。
「え！？お、おしゃぶりだ」
...今にも砂のように崩れ落ちてしまいそうな、傷だらけのおしゃぶり。
綺麗な青を放たない、沈黙した...アイツの。
「このおしゃぶりって...」
沢田の手から奪い取る。
これ以上オレ以外が持っていることに、耐えられない。
こんなにも傷ついた姿。見せられない。
「今日はここまでだ。メシにしろ」
足早にエレベーターへと乗り込む。
力の入る手のひらを広げ、おしゃぶりを直視する。
この無数の傷跡は戦闘痕だ。
アルコバレーノにとって命と同等の存在であるおしゃぶり。
それがここまで傷つくことは緊急時以外ありえない。
戦いの末強引に摘出された。そう考えるのが妥当だ。
それが起こった状況...。
...血の味がする。奥歯が軋む音がする。
おしゃぶりを絶対に手放さないよう握りしめる。
迷彩のバンダナが脳裏で翻る。
こみ上げるものを外に出す権利はオレにはない。
オレがそこにいればと、力不足を悔やむことすらも。
...オレがそこにいれば？
小さな、しかし確かな違和感。
この匣は、迷彩柄をしている。そしてアイツが行方不明になった後、オレの元に届いた。
オレはてっきり、アイツがオレに託した何かだと思っていた。
だが入っていたのは摘出されたおしゃぶり。
アイツ自身がこの匣を作りおしゃぶりを封印することはできない。
ならば、匣を作りオレに送ったのは、誰だ？
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 42人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：雪兎(月兎) | 作成日時：2023年9月1日 21時
