夏ときみの声と (Daiki＆Yuri)

35 ページ35

***









どういうこと…?

何のことか理解できない。









侑李の方を向くと

小さく俯く彼は、いつもと違っていた。









.









いつも自信満々のくせに、

唇は震えて、拳を固く握って。









震える肩のせいで、

小さい彼がより小さく見えた。









.









侑李「Aの声が出なくなって4年が経った。」









.









ボソッと喋り始める侑李。

私は小さく頷いた。









.









侑李「あれから4年も経つのに声は出ないし

Aが好きだった花火も見れない…









ううん、それどころか怖いものになってるよね。

花火を見るだけで気絶するくらいに。」









.









侑李は下を俯いてそう言った。

顔は見えないけれど、真剣な表情だったと思う。








.









侑李「…だから上書きして欲しかった。









花火が悲しい思い出になるんじゃなくて、

大貴との楽しい思い出になるように。」









.









楽しい思い出……









.









侑李「だってさ、楽しかったでしょ。

大貴とのお祭り。」









.









うん…楽しかった。

たくさん歩いて、たくさん食べて、たくさん遊んだ。









久しぶりに繋いだ手もドキドキして、

最後はどうしてかヤキモチ妬いたり、色々トラブルがあったけど…









だけど、凄く楽しかった。









.









私は首を縦に振る。









侑李はよかった、と少し口角が上がった。

そして、また真剣な顔になる。









.









侑李「何度も言ったけど、

“あの事”についてはAは何も悪くない。









悪いのはA以外の全ての人たちだよ。」









.









だからさ、と続ける侑李。









長く伏せたまつ毛が上を向いたとき。

私は何故か震えた。









何で震えたのか分からないけど

多分、怖かったと思う。









.









多分、これから言われることは

ずっと聞きたくなかった言葉だから。









.









侑李「…誰もAを責める人はいないよ。









あの人のことは、Aだけじゃなくて

周りの人も知らなかったから仕方ないの。









だからAは悪くない。









.









だから、だから……」









.









“もう忘れて”









“強くなろうよ”









***

36→←34

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す