カラフル (ページ9)

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『美味しかったです。ご馳走様でした』

「こちらこそ、お願い聞いて貰ってありがとうございました」

『そういえば紅林選手のお祝いでしたね。ごめんなさい、楽しくて忘れてました』

最初は覚えてたんですけど、と恥ずかしそうに笑う彼女に心が癒される。あー、まだ一緒にいたいのに。

それでもAさんは明日も授業だし、僕も試合があるわけで。駅までの道を並んでゆっくり歩いた。

「あの、Aさん」

『はい？』

「もう1つお願いしてもいいですか」

『はい！どうぞ。私も忘れちゃってたんで何でも言ってください』

少し言い淀んで、でもはっきりと。
立ち止まったAさんの目を見つめて、

「敬語やめましょ」

『え、あ、はい、いや、うん！』

「やった」

驚きつつも、ニコニコしながら返してくれるから僕も笑顔になって。だからつい、言ってしまった。

「かわい、」

ただの独り言。隣の彼女に聞かせるつもりは無くて、というか心の内に留めておくつもりだったんだけど。気付いたら口から零れてた。

本人に聞かれた恥ずかしさよりも、彼女の反応が気になって。
どうしよう、気持ち悪いって思われてないか、引かれてないか、そんな不安を抱きつつ恐る恐る横を見た。

でも、そこに居たのは耳まで赤くした彼女で。
ふいと僕から目線を外し、口元を手で覆うその姿からは、とても怒っているようには見えなかった。

待って、それはどういう反応ですか。期待してもいいやつですか。にやける口元を抑えつつ、平静を装う。

どうせ言っちゃったんだから、もう一押ししておこう。このタイミングを逃したらきっと後悔するから。

反対を向いたままの彼女に、こう問いかけた。

「A、て呼んでいい？」

「先輩たちもそう呼んでるし、」と言い訳がましく付け足してしまったが、ずっと言いたかったことを伝えられて。

彼女があちらを向いたまま、こくこく頷くのを見て、心の中でガッツポーズをする。

よく頑張ったぞ、僕。

駅の前で彼女が「ばいばい」と手を振るから、僕も振り返して。

少しの寂しさを感じつつ、先程よりも縮まった2人の距離に、またもや口元がにやついた。

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