逃走 ページ7
.
黙々と作業を進めるものの、そんなに簡単に終わるような量ではなかった。
その間に、奴がそれ以上の尻尾を見せることはなく、そもそも会話も面白いことがある訳ではなかったから、気まずさを感じないように手元に集中していた。
小一時間ほど経った頃、私は立ち上がって声をかけた。
「あの。」
「あっ。」
奴は、片付けの手を止めて姉の卒業アルバムをじっと見ていたものだから、怒られるとでも思ったのだろうか。
慌ててアルバムを閉じて、ちょっとだけ歪な薄い笑みを浮かべて恥ずかしそうにしていた。
チクリと心臓に針を刺したみたいな感じがした。
「ちょっと私、買い出しに行かないといけなくて。暑いので冷たいものでも買ってきますね。」
「あ、うん。」
「その間進めておいてもらってもいいですか？」
「あ、あぁ、それは全然ええよ。気をつけてな。」
姉の部屋の襖を後ろ手で閉める。
何が気をつけて、だ。こんな田舎ならすれ違うような車も少ないというのに。
思わず目の前で鼻で笑ってしまいそうだった。
そう思っていたとき、襖の向こうから小さな声で聞こえた。
「⋯⋯かわいい。」
私は、奴が持っていたアルバムを思い出して、頭を掻き毟りたくなるような衝動を覚えた。
怒りのまま、車に乗りこみエンジンをかける。
ドゥルルン、と大きな音をたてた車は、家からあっという間に離れ、私を外に連れ出してくれた。
家の人は用事でほとんどが出払っており、こんな田舎では必需品の車がひとつも置いていない状況だ。
唯一残っていた車は、今こうして私が乗っている。
これはもうひとつの作戦だ。
車もないあの監獄のような蒸し暑い実家に閉じ込め、二、三時間放置して、素知らぬ顔で戻る。
どうせその頃には片付けにも飽きているだろうし、適当なことをしていればそれを問い詰めればいい。
それどころか、長時間どこに行っていたのか、なんて怒声をかけられるかもしれない。
そしたら、それをちょっと誇張して言いふらしてやればあっという間に本性が知られるだろう。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 83人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
月出里(プロフ) - ぅましぃさん» コメントありがとうございます！本当に好き勝手書いてしまったので、そう言っていただけると本当に嬉しいです！そのうちハッピーなのも書きたいなと考えているので、その時はまた読んでいただけると嬉しいです！ (12月3日 13時) (
レス) id: 1fdb94316a (このIDを非表示/違反報告)
ぅましぃ(プロフ) - コメント失礼します…！完結おめでとうございます、最推しなので今までよりももっと感情移入してみてしまいました！月出里さんの書き方がいい意味で不穏で最高でした…🙇♀️長文失礼しました！ (12月3日 4時) (レス) @page22 id: db39fe791e (このIDを非表示/違反報告)
月出里(プロフ) - まるまるさん» いつもコメントありがとうございます！とっても励みになっています！そういって頂けると嬉しいです〜！今回も割と好き勝手していますが、これからも読んで頂けると嬉しいです。コメント毎回ものすごく嬉しいです！ありがとうございます！ (10月16日 14時) (レス) id: 1fdb94316a (このIDを非表示/違反報告)
まるまる(プロフ) - またまた新作おめでとうございます･･･！月出里さんの本人像が毎度のこと解釈一致で面白いです！今回も楽しみにしてます🥲♡ (10月16日 13時) (レス) id: 12c6688151 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：月出里 | 作者ホームページ：https://mobile.twitter.com/home
作成日時：2023年10月13日 17時
