28 ページ28
「A、おいで。」
滅多に聞くことのできない甘い声が居間から聞こえてくる。義勇の手招きに誘われるように、Aは小走りして義勇の前にちょこんと腰を下ろした。
縁日から帰ってきたばかりの体は想像よりもずっとくたくたのようだ。余韻も残っているせいか腰を下ろした途端に頭がふわふわする。
「ふふ、義勇さん。」
「なんだA。」
用もないのに互いの名前を呼び合ってみる。そんな些細なことが泣きたくなるほどに幸せだった。
じっと見つめ合っていると突然、義勇の大きな左手に顔を優しく愛撫される。それが無性にくすぐったくてAは逃げるように身を捩った。
「今日が何の日か覚えているか。」
「えっと…何でしょう?」
「今日はお前の生まれた日だろう。」
「えっ?」
義勇に言われた瞬間、Aはそれを思い出した。
「海の向こうでは生まれた日を祝う習慣があるそうだ。」
少し照れ臭そうに呟きながら義勇がこちらに向かって小さな包みを差し出した。慣れていないのか、手がプルプルと震えているように見えた。
「…えっと、これは?」
「開けてみてくれ。」
言われるがまま包みを丁寧に開いていく。中には着物の模様によく似た小花柄の簪があった。よく見るとそれは、以前立ち寄った装身具店のそれだった。
「どうだ。」
「義勇さん…」
「今までお前に贈り物をやることもなかった。俺はそういったことに疎いようで、本当に申し訳ない。」
込み上げてきた喜びは到底言い表せなかった。Aは顔を歪ませて泣きながら必死に首を横に振る。義勇の愛情がひしと伝わってくることが幸せすぎて、今にも溶けてしまいそうだった。
「愛してる。」
「私もです。」
義勇の愛と温もりを全身で感じながら、Aはこの時が永遠に続いてほしいと切に願った。
140人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「鬼滅の刃」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
仮屋瀬みらい(プロフ) - 凪子さん» 最後までお読みいただきありがとうございました!これからも読者様に大切にしていただける物語を書けるように頑張ります! (2021年8月13日 23時) (レス) id: 78c8cda6bf (このIDを非表示/違反報告)
仮屋瀬みらい(プロフ) - 義勇と杏寿郎推しさんさん» 感想お寄せいただきまして、ありがとうございます!これからも頑張ります ^ ^ (2021年8月13日 23時) (レス) id: 78c8cda6bf (このIDを非表示/違反報告)
仮屋瀬みらい(プロフ) - 莉子さん» 莉子さん!このお話を大切にしてくださってありがとうございました!また新しく義勇さんのお話書きたいなと思っているので暇つぶしにでもお読みいただけたら嬉しいです! (2021年8月13日 22時) (レス) id: 78c8cda6bf (このIDを非表示/違反報告)
仮屋瀬みらい(プロフ) - 伊達巻さん» 伊達巻ちゃん読んでくれてありがとう!そう言ってもらえて嬉しいです( ; _ ; )! (2021年8月13日 22時) (レス) id: 78c8cda6bf (このIDを非表示/違反報告)
凪子(プロフ) - 素敵な作品をありがとうございました。新作、楽しみにしてますね!胸が苦しくなるキュンさがたまりませんでした…泣。 (2021年2月26日 21時) (レス) id: 33c3d87eb8 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:仮屋瀬みらい | 作成日時:2021年2月17日 18時