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「…上手くいかないよね、何もかも。」
誰よりも近くにいたはずの兄の存在が今は誰よりも遠くに感じる。
「こんなに疎遠になっちゃって、さ。」
「ああ、」
感情の読めない無一郎の相槌はこんなとき、妙に心地よく感じる。
「私はただ、謝りたいだけなのに。」
窓を開けっ放しにしていたようだ。いつもであればそっと吹き込んでくる優しいはずの風も、今は何だか目に染みる。
「ごめん、」
「え?」
「この話、何回もさせてるんでしょ。」
そんな風に呟く無一郎はやけに悲しそうな顔をしていた。普段涼しい顔ばかりの彼にそんな感傷的な顔は似合わないし、何よりそんな顔をさせたくて話しているわけではないのだが。
「いいの、この話は忘れて。」
「今度はもう忘れないようにするよ。」
「何でよ。」
「だって君、泣きそう。」
「…え、?」
そう指摘されて初めてAは自分の瞳が潤んでいることに気付く。無一郎があまりに悲しそうな顔を見せるのはきっと自分のせいだと思った。
「…あはは、何でだろ。」
Aは瞼の縁をそっと指でなぞりながらきゅっと口角を持ち上げた。
「兄妹なんだから分かり合えるよ、きっと。」
「そんなもんかな。」
「僕には兄弟がいないから分からないけど。」
「ああ、時透君は一人っ子?」
「うーん…」
少し間が空いて、ぽつり、声が聞こえた。
「…思い出せない。」
そっか、と小さな相槌を打って隣に視線を向ける。どこか物寂しげな顔をして空を見上げる無一郎はやっぱり綺麗な顔立ちをしていて、Aはしばらく言葉を返すのも忘れてその横顔に見惚れた。
もしかしたら覚えていないだけで、無一郎にも大切な兄弟がいるんじゃないか、Aは何となくそんな気がしてならなかった。
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仮屋瀬みらい(プロフ) - 香恋さん» お気遣いありがとうございます( т_т )春から環境が変わってちょっと疲れているのかもしれません、、また余裕ができたら更新いたします◎楽しみにしていただいているところ申し訳ございませんが、もう少し待っててください( т_т ) (6月15日 21時) (レス) id: 51aa3d423f (このIDを非表示/違反報告)
香恋 - 仮屋瀬みらい様、お忙しい中お知らせありがとうございます…!お身体心配です(;_;)私生活あってこその活動ですのでどうぞ無理せずまた心から執筆したい時でいいと思います。綺麗な文章なのできっと何度も推敲して更新されてるんだろうなぁと。いつまででも待ってます! (6月15日 10時) (レス) id: da7568f49d (このIDを非表示/違反報告)
仮屋瀬みらい(プロフ) - 無一郎 霞柱さん» 本作を見つけてくださりありがとうございます🥲温かいコメントまで嬉しいです...!これからも更新頑張りますので応援していただけるとありがたいです。無一郎くんの良さを書けるように頑張りますね❤️🔥 (5月29日 23時) (レス) @page9 id: 51aa3d423f (このIDを非表示/違反報告)
無一郎 霞柱 - 初めまして。私は無一郎の大ファンでこの作品を見れてとても嬉しかったです。この作品は何度でも読み返せる作品だと私は思います今後も楽しみに期待しています! (5月29日 20時) (レス) id: e0adcf337a (このIDを非表示/違反報告)
仮屋瀬みらい(プロフ) - 香恋さん» 更新が遅くて申し訳ないです頑張りますね( т_т )!文章を褒めていただけることが何より嬉しいので香恋様のコメントに嬉し泣きしそうです( т_т )繰り返し読んでくださってるなんて...!たくさん作品を愛してもらえると嬉しいです( т_т )✨ (5月19日 20時) (レス) id: 51aa3d423f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:仮屋瀬みらい | 作成日時:2023年5月15日 0時