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112話 ページ17

俺の兄貴は料理の上手い人だった。それに俺の面倒をよく見てくれた知り合いも、とても料理が上手かった。俺はそんな人たちに囲まれて育ててもらったから、ある程度はできるというだけ。大体腹が減れば母さんや兄貴が基本的に何か作ってくれていたから、俺自体の自炊能力はそこまで高くない。だけど、母と兄が並んで楽しそうに料理をする姿を見る度それが羨ましくて、時たまそこに割り込むようにして手伝いをしていた。当時は兄たちを心底心配させたらしいが、その経験が今の俺の力になっている。母、そして彼の後ろ姿、手さばき。どれも一番近くで見ていた自信があった。

焦燥感が胸をよぎる。ああ、ダメだダメだ、落ち着いて。ここでミスをすればマスターの泣き顔を見ることになる。
白い紙に流れるような筆跡で指示は書かれていた。基本的なレシピから、最低限のひと手間まで。だけどそれはむしろそれ以外は俺たちに任せるということ。今まで一度だってきちんと料理なんてしたことがないのに、とは今更言えやしなかった。
野菜は切ったそばからアントーニョが運んでいく。俺の作業は基本的には野菜を切る、肉を切る、魚を切る。他にはドレッシングを作ったり、下味をつけたり。そうやって準備したものはマスターとアントーニョによって煮込まれ、揚げられ、混ぜられ、焼かれ、シンデレラのように変貌を遂げていく。
俺の準備が進まないとマスターたちは仕事が出来なかったから、最初は共に作業をした。でも流れができればそこからは一人の世界だ。必死に兄のことを思い出して、少しでも美味しくなるようにと手を動かした。

視界の隅にローデリヒの姿を捉える。彼は非常に余裕のある動きでもってボールの中で生地をかき混ぜている最中だった。それを見てふうと小さく息をつく。焦らないでゆっくりと。きちんと用意することがこの場での最善だ。どうやらローデリヒには人を落ち着かせるオーラがあるようだ。

それから全員が必要最低限の言葉を交わしながら作業を繰り返していくと、暫くして非常にいい匂いが漂い始める。その旨み溢れる誘惑は俺の腹を鳴らした。マスターがそれに気付いて笑いながら味見をさせてくれる。そのスープは口元に近づけるだけで香りが鼻腔に広がり、そして一口含めば野菜の甘味を感じる、そんな幸せがたっぷり詰まったような代物で。そこらの店よりよっぽど美味い。
おいしい、と口つい出た言葉に彼は自信たっぷりな様子で「Merci.」と片目をつぶった。

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設定キーワード:男主 , ヘタリア , APH   
作品ジャンル:アニメ
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m(プロフ) - fです。いつでも気長に更新待っています! (11月13日 5時) (レス) id: 4ca17f9031 (このIDを非表示/違反報告)
そうる(プロフ) - fさん» 本当に泣きました。ありがとうございます。がんばります! (4月20日 9時) (レス) id: e4ea35986a (このIDを非表示/違反報告)
f - 何度も繰り返しているからこんな素敵な作品になるんですね!この作品に出会えて、読むことができるなんて幸せ...最高.....!好きなのでどれだけ掛かっても大丈夫ですよ!頑張ってください! (4月17日 22時) (レス) id: 4ca17f9031 (このIDを非表示/違反報告)
そうる(プロフ) - fさん» f様、度々応援のお言葉ありがとうございます。自分は一度に一気に更新することが苦手で、何度も何度も編集を繰り返してしまうのですが、そのお言葉にとても救われました。ゆっくりにはなってしまいますが、これからもよろしくお願いします。 (4月17日 1時) (レス) id: e4ea35986a (このIDを非表示/違反報告)
f - 久々の更新でわくわく...!!気長に待ってます!頑張ってくださいいつも応援してます! (4月15日 2時) (レス) id: 4ca17f9031 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:そうる | 作成日時:2018年1月9日 17時

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