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127話 ページ33

なんでこんな目に。強く引かれる髪が痛い。思い切り抵抗できるような気力なんて残っていない。だから思うがままにされている。
こんなに馬鹿らしいことはないだろう。先程から詰め寄るギルベルトは俺を組織へのスパイだと思い込んでいる。きっと誰かに情報を売ったとも。それに思わず笑ってしまいそうになる。その実態はただの浮気捜査だ。
そう、こんなただの浮気捜査の為だけに命を危険に晒すなんて馬鹿げているんだ。わかってる。こんな目に遭わなきゃならない理不尽に殴りかかってやりたい。わかってる。勘違いですよと教えて信じてもらえたなら、俺は涙を流して歓喜するだろう。わかってるんだ、嫌というほど。きっとこの目の前の男は俺を殺すのに躊躇しない。そんなことまで。
それでも俺は絶対に依頼人との契約は口にしないのだろう。我ながら見上げた根性である。
探偵とは公正である必要が無い。依頼人は全てであり、彼らの願いに沿うのが仕事だ。だからこそ、信用だけは失うことができない。絶対に。

まあ、それも全部今日限りなのかもしれないが。



「おい、いいのか?お前、死んじまうぞ。」

「……」

「なあ、お前は誰に遣わされたんだよ。それだけでいいんだ、言えば直ぐにでも、」

「………いわない、」

「……」



はあ、とギルベルトがため息をついたのがわかる。そのまま諦めてくれないか、という淡い希望が脳を過ぎるのも束の間、俺の頭は顎から地面に衝突した。ギルベルトが手を離したのだ。
振動が骨から響くような心地がして痛みに悶えていれば、立ち上がった彼はこつこつと腕につけた時計のガラスを叩いている。なんだろう。何かあるのかもしれない。
それからしばらくは俺の微かな呼吸だけが音の体をなしていた。ギルベルトは文字盤を見たままで静止し、こちらには見向きもしない。この間にどうにかして手の縄を解いてしまいたいけれど、余程強固に結ばれているのだろう。多少力を入れる程度ではびくともしなかった。

ふと、がちゃりと近くで扉の開く気配がした。古い錆びた音と同時に響くのは革靴の足音である。そちらを向こうと身体をよじる。ギルベルトが「やっときたかよ」と笑って入室した人物に駆け寄って行った。
「こいつがあの?」「ああ、間違いないぜ」なんて、そんなやり取りが聞こえる。

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設定タグ:男主 , ヘタリア , APH   
作品ジャンル:アニメ
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ミチル - ID違うんですけど一応同一人物です、、、! (2022年9月15日 7時) (レス) id: 4511edeaa7 (このIDを非表示/違反報告)
ミチル - 初コメからしばらく経ちましたが未だに見に来てます。とても面白いし、この作品の続きを楽しみにしている人もいると思います!私はいつまでも続きを待ってます! (2022年9月15日 7時) (レス) id: 4511edeaa7 (このIDを非表示/違反報告)
ミチル - 初コメ失礼します。凄い面白くてあっという間に読んでしまいました!更新楽しみにしてます! (2022年8月3日 23時) (レス) id: e447b7200f (このIDを非表示/違反報告)
そうる(プロフ) - 山口さんさん» 四年も前の二次創作に心温まるお言葉をくださり、ありがとうございました。 (2022年7月9日 22時) (レス) id: 4692de9cf0 (このIDを非表示/違反報告)
山口さん(プロフ) - ただただこのそうるさんのひとつひとつの表現が好きです (2022年4月30日 2時) (レス) id: 218fc2ba1d (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:そうる x他1人 | 作成日時:2018年1月9日 17時

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