125話 ページ31
「…フェリシアーノ、時間だ。」
「そう?俺まだキクと話していたいなあ。」
「ダメに決まっているだろう。本国のことを考えろ。」
予定を全て終えたところで、向こうには時間が来たようだ。ルートヴィッヒはちらりと手元を見てフェリシアーノにそう告げた。ええ、とまるで子供のように駄々をこねるフェリシアーノからは既に先程のような圧は消えている。あの後何事も無かったように話す彼に、菊は戸惑いを隠しきれなかったほどだ。しかしそれとは裏腹に、当初予定されていた代表同士の顔合わせ、交流、さらには事が上手く運べば成されることになっていた家同士、同盟関係にも近い契約までもが成立し、菊としては万々歳の結果となった。ていうかよく杯を交わそうと思ったな、とは署名中の菊の所感である。
「ほんとに帰らなきゃダメ?」
「ダメだ。」
「ヴェ〜…ごめんね、キク。」
「いえ、大丈夫ですよ。」
肩の荷が降りるのでむしろその方が楽なんだけども。そう思ったが顔には出さない。フェリシアーノやルートヴィッヒと話す時間は不思議といつの間にか警戒も解けるような安堵感があったが、それが今では逆に気味が悪い。彼らが帰ることに寂しいと感じてしまうのはなんだか危ない気がする。あのスパイ容疑さえなければこうは思わなかったに違いない。
ルートヴィッヒが急かすような形で軽く手持ちの荷物をまとめ立ち上がったので、私も着物の裾をはらって倣う。彼らに先立ち襖を引きながら、彼らへと礼を告げた。
「本日は遠いところわざわざ御足労ありがとうございました。私はこのあと耀さんと会談があるのでお見送りは出来ないのですけど、代わりにうちの者に送らせますね。」
「すまないな。」
「おー、やっぱここ開けたら違う国みたいだなあ、すっげ〜!」
目を輝かせるフェリシアーノ。そりゃそうだ、この部屋とは違う国である。
すぐ脇で待機してもらっていた若い衆にくれぐれもと注意深く言付けた。あとは問題ないだろう。
「じゃあ、今日はありがとね。今度はキクの国に遊びに行くよ。」
「ええ、是非いらしてください。心を込めておもてなしさせていただきますから。」
「これからは何かと世話になるだろう。その時はよろしく頼む。」
「勿論です。」
去り際も手を振るフェリシアーノはルートヴィッヒに背を押されながら廊下の角に消えていく。彼らの背が見えなくなってからしばらくして、菊ははあ、と息をついた。
「あの子…大丈夫でしょうか。」
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ミチル - ID違うんですけど一応同一人物です、、、! (2022年9月15日 7時) (レス) id: 4511edeaa7 (このIDを非表示/違反報告)
ミチル - 初コメからしばらく経ちましたが未だに見に来てます。とても面白いし、この作品の続きを楽しみにしている人もいると思います!私はいつまでも続きを待ってます! (2022年9月15日 7時) (レス) id: 4511edeaa7 (このIDを非表示/違反報告)
ミチル - 初コメ失礼します。凄い面白くてあっという間に読んでしまいました!更新楽しみにしてます! (2022年8月3日 23時) (レス) id: e447b7200f (このIDを非表示/違反報告)
そうる(プロフ) - 山口さんさん» 四年も前の二次創作に心温まるお言葉をくださり、ありがとうございました。 (2022年7月9日 22時) (レス) id: 4692de9cf0 (このIDを非表示/違反報告)
山口さん(プロフ) - ただただこのそうるさんのひとつひとつの表現が好きです (2022年4月30日 2時) (レス) id: 218fc2ba1d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:そうる x他1人 | 作成日時:2018年1月9日 17時