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120話 ページ25

天井をぼんやりと見つめている。
いつの間にやら人々の話し声が聞こえることもなくなっていた。そうして隔離された空間で、俺はオレンジ色に照らされた壁のシミが動いたような錯覚を起こし続けている。
いやあほんとに動いてる気がするんだよね、ほらあの隅のほうとか。

アルフレッドが行ってから何分経ったのだろう。一人でいると時間は速いようにも遅いようにも感じる。実はまだ5分も経っていないのか、はたまた20分は過ぎてしまったのか。生憎とこの部屋に時計の類は見当たらない。
7度目の寝返りをうった。決して大きくないソファの上では僅かに動くことしか出来ない。もぞもぞとつい身体を捩っては視線は変わらずシミを追っている。つまり俺は暇だった。
だって誰も来る気配がないのだ。あの料理の数では片付けになかなかの時間を要するだろう。会場で仲良くなれた人もおらず、手慰みになりそうなものもない。とにかくじっとしているだけ。こんなことなら本を一冊でも持ってくればよかったと後悔したが今更である。

別に酔いすぎた訳でも無い、と一人心の中でごちた。同時に仕事を奪ったアルフレッドへの不満も漏れてくる。
そうなのだ、俺は今日は比較的意識も保てていたし酷く酔っ払った訳でもない。大人なんだからやるべき事はきちんとできる。それをなんだあいつは。ぶつぶつ。

考え事というのは時として人を意識の中へと引きずり込む。聴覚すらも外界から断絶してしまうと、あとは無防備になるばかりだ。
そしてそれはこと探偵のAにとっても例外ではなかった。
身体を横たえ、可能な限りまるまって口を尖らせたAはとうとう自分の膝を見つめ始めた。自分の世界へと篭ってしまったのである。

だから気づかなかった。足音が一つ近づいてきていたことに。アルフレッドのスニーカーとは違う革靴の乾いた音が部屋の扉の前で静止したことに。磨りガラスで誂えられた扉が音を鳴らさずゆっくりと開かれたことにも。

気づかなかった。気づいた時には遅かった。

自分の上に影が落とされる。それでようやくAはアルフレッドが戻ってきたのだと、不満をぶつけてやろうと思い顔を上げようとした。
僅かに動かすだけでわかる違和感。目の前にいる人間はギャルソンのような制服ではなく、落ち着いた色のスラックスを履いているようだった。思わず動きは止まり全ての感覚が瞬時に研ぎ澄まされる。
その男はアルフレッドではなかった。



「よう、ちょっと一緒に来てもらうぜ。」

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設定タグ:男主 , ヘタリア , APH   
作品ジャンル:アニメ
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ミチル - ID違うんですけど一応同一人物です、、、! (2022年9月15日 7時) (レス) id: 4511edeaa7 (このIDを非表示/違反報告)
ミチル - 初コメからしばらく経ちましたが未だに見に来てます。とても面白いし、この作品の続きを楽しみにしている人もいると思います!私はいつまでも続きを待ってます! (2022年9月15日 7時) (レス) id: 4511edeaa7 (このIDを非表示/違反報告)
ミチル - 初コメ失礼します。凄い面白くてあっという間に読んでしまいました!更新楽しみにしてます! (2022年8月3日 23時) (レス) id: e447b7200f (このIDを非表示/違反報告)
そうる(プロフ) - 山口さんさん» 四年も前の二次創作に心温まるお言葉をくださり、ありがとうございました。 (2022年7月9日 22時) (レス) id: 4692de9cf0 (このIDを非表示/違反報告)
山口さん(プロフ) - ただただこのそうるさんのひとつひとつの表現が好きです (2022年4月30日 2時) (レス) id: 218fc2ba1d (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:そうる x他1人 | 作成日時:2018年1月9日 17時

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