【男主】unità difettoso！【APH】

44話 ページ46

その日俺の事務所を訪れたその人は、俺の後ろで興味深そうにこちらを見ていた男に対して、「助手さんも良かったら話を聞いてくれ」なんてとんでもないことを言った。だからこんなことになったのだ。俺ってばびっくり。本当にどうかしている。



「ここがオークション会場…」

「ねえ早く行こうよA！待ちきれないよ！」



俺たちは今都市にあるとあるビルに来ている。





.





開業してから約半年が経とうとしていれば、僅かではあったが訪れる人間もいた。
フランシスという男に名刺を渡したことはこの上なく正解だったようで、客は口を揃えて「マスターの紹介で」と言う。といっても数は多いわけではない。未だ探偵業で食っていくのは難しく、たまにカジノに足を運んでは一か八かの勝負をするような日々だ。
そんな中、今日来た男もまたマスターからの紹介であったようだった。

扉を開けたのはスーツで身を包んだ60代ほどの初老の紳士である。白髪混じりの髪は後ろに流されて、シルクハットを被っていた。彼は出迎えた俺に1度驚いたが、すぐさま笑って「私はヘンリー・メイスフィールド。フランシスの言っていた探偵は貴方ですかな？」と訊いた。頷けば「そうですか、それは良かった」と心底ほっとしたような表情を見せる。
「貴方にお願いがあって来たのです」と言った彼を応接間に通すのは容易い事だ。

その日もアルフレッドは遊びに来ていたが、初めて客と遭遇したこいつはデスクに備え付けのイスに座ったまま、本を読むふりをしていた。あくまでふりだ。内心は興味津々なのがダダ漏れである。

男性はそんなアルフレッドにも一度礼をする。礼儀正しい人だ。本場の紳士とはこういう人間を指すのだろうか。
ソファに座るように促すと、彼は素直にそれに応じる。腰を下ろした後、間もなくして老人は本題を口にした。



「お願い、というのはですな。貴方に怪盗の正体を見破ってほしいのです。」

「……はぁ。」



唐突な話に眼をむくと男性は微笑む。
「順を追って説明しましょう」と言う彼は少し身体を前かがみにして、まるで秘密の話をするみたいな体制をとった。俺もそれに倣って上半身を前に押し出す。

彼はポケットに手を入れると1枚のカードを取り出した。白いカードだ。折り畳まれているそれを老人は開いた。そこに刻まれていたのは、黒い文字と赤の刻印。



「ある日、これが届いた事が発端でした。」

45話→←43話

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す