3話 ページ5
それは突然だった。
「んで?こいつはなんなんだよ。見ねえ顔だな。」
「そりゃそうよ。昨日の昼の便でこっちに来たんだってさ。」
「ふーん。」
生産性の無い争いをしても埒が明かないと、彼らはどうやら話題を変えることにしたようで、その矛先は見知らぬ東洋人に向いたようだった。
俺の代わりに答えてくれたマスターは思い出したように「ごめんね、こいつが来るといつもこんな感じなの」と謝ってグラスに酒を注いでくれる。
同席した相手の正体が気になるのは皆同じだ。俺が眉毛の濃い彼に聞くより早く、マスターが口を開いた。その指先はグラスに口をつける彼に向いている。
「こいつはアーサーっていって。軍警で働いてるから困ったことあったら訊くといいよ。お兄さんとは腐れ縁みたいなもん。」
「…はぁ……?」
アーサーと呼ばれたその人はこちらに視線だけを向けて軽く会釈をした。つられて自分の頭も動く。どうやらコミュニケーションは取れるみたいだ。先程までの様子から少し心配であったのだ。
軍警察と言えばこの街では絶対的に近い力を持つと聞いている。俺の西洋人の友人がそう言っていた。
何故絶対的と言い切れないのかと言えば、それは街の勢力図にもよるのでまた後にしよう。
そうしてやっとそのアーサーという彼がきっちりとした身なりなのかという点で納得した。仕事中なのか仕事終わりなのかは判断しかねたが、なるほど警官とは。それはきちんとしているはずだ。
ようやく合点がいったので、小さな靄が晴れたような気分だった。それと同時に、そういえば自分は名を明かしていなかったことに気付く。
「えっと、俺は橘っていいます。」
「タチバナ?」
「はい。」
「へーえ、綺麗な響きね。ちなみにお兄さんはフランシスっていうの。」
およそ口にしたことは無いであろう言葉の響きが新鮮なのか、何度か名を呟かれ妙に落ち着かない気分になる。そしてついでとばかりにマスターの名前を知った。フランシス。なんかかっこよくて綺麗な名前だ。
「これからよろしくね」と手を差し出されたから、素直にカウンター越しに握手をする。
さすが西洋の人間はフレンドリーなのだなとしきりに感心していた。
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そうる(プロフ) - 表現や関係性、トリック等に山のように修正箇所がありますし、名前変換の修正が不充分な箇所もあるので土に埋まりたいほどなのですが、それでも今なおコメントしてくださっている方、地中から発掘してくださった方にこの場を借りて御礼申し上げます。 (2022年7月9日 22時) (レス) id: 4692de9cf0 (このIDを非表示/違反報告)
そうる(プロフ) - 読んでくださっている方、ありがとうございます。古に拙文を書いた当人です。四年前のテキストに耐えかねアカウントを消してしまったため、この作品の細かい箇所の修正がもうできません。(パスワードを忘れてしまいました) (2022年7月9日 22時) (レス) id: 4692de9cf0 (このIDを非表示/違反報告)
そうる(プロフ) - のぁさん» 貴重なご意見ありがとうございます。とても参考にさせていただきました。弱い、という言葉では主人公を表すのにいまいちしっくりきていなかったので思い切って変更することにしました。続編の方でもお付き合いいただければ幸いです。 (2017年10月22日 20時) (レス) id: e4ea35986a (このIDを非表示/違反報告)
のぁ(プロフ) - 続編おめでとうございます!題名の事ですが、私としては題名にこだわり等はないので変わってもそのままでも、と思っています。もし作者様が今の題名より素敵な題名を思いついたのであれば、それに変更する。というのでもいいと思います! (2017年10月22日 17時) (レス) id: 716e994b36 (このIDを非表示/違反報告)
英智君尊いよぉぉぉぉ(((殴 - あっそうなんですね。わかりました〜書き直しが出来たら教えてください♪ (2017年6月17日 18時) (レス) id: 2f00a5668f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:そうる | 作成日時:2016年12月12日 9時