36話 ページ38
「まず、お前の話であった謎は3つ。」
歩く時間がもったいないとばかりに、俺が追いついたことを確認した彼は指を立てながら説明を始める。ことのあらましを整理するつもりらしい。
俺はそれを黙って聞いた。
「一つ、床下からの音。二つ、窓に見えた白い影、三つ、二階の寝室に伸びた人影。」
それに力強く頷く。あの日見たそれは紛れもない事実だったし、不可解な出来事でしかなかったから。
足早に歩く俺たちが戻ってきたのはあの庭で、彼が煮干を撒いた場所だった。
「まず一つ目、床下の物音だが…これは事務所に居た段階で予想がついていた。」
足を止めた彼にぶつかりそうになりながらも、俺もそこで一度停止する。先程とは全く違ったまるで探偵みたいな顔をする彼に俺は少なからず困惑して、ついじっと見つめてしまう。
彼は俺にはお構い無しで、黙ってその指を使って俺の視線を誘導した。俺はその通りに指の先へと目を向ける。
そこで俺は初めてようやくそれに気付いて、「あっ」なんて間抜けな声を出してしまったのだ。
何故ならそこには真っ黒な猫が小さな猫と一緒に、小魚を咥えていたからである。
「こいつらだよ、音の原因。」
「猫……」
「あの日風が強かったんだろ?それを凌ぐために忍び込んだんじゃねえかなあ、こいつら。」
それであの日は床下から音が……
猫たちはこちらに気付いたのか、じっとその瞳を向けてくる。おそらく一番大きいのが母猫であり、全部野良猫。毛並みはあまり良くないが、体格は痩せているようには見えない。可愛らしい家族だ。
俺たちはある程度の距離を保っていたけれど、彼は釘を刺すように「撫でようとか思うなよ」と言った。
「ネズミが出ないってことはつまり出ない理由がある、って最初は考えてただけなんだけどな。」
時系列的にちょっと考えにくいし、あの日に初めて音を聞いたってんなら、床下の件はこいつらのせいって考えるのが妥当だよ。
彼はそっと腕を組む。猫たちは小魚を全部平らげたのか、俺たちをじっと見つめたまますぐにどこかに行ってしまった。
人がいたら猫は出てこない。だから魚を撒いて時間を置いた。彼の合理的判断だ。
猫のしっぽを見送って、彼はわしゃわしゃと頭を掻いた。その小さい顔がぐるんと上を向き、俺を見る。
「な、簡単な話だっただろ?まず一つ目の謎は終了だ。」
「そう、だね………」
彼はにいっと笑う。
「残りの問題も、さっさと片付けてしまおう。」
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そうる(プロフ) - 表現や関係性、トリック等に山のように修正箇所がありますし、名前変換の修正が不充分な箇所もあるので土に埋まりたいほどなのですが、それでも今なおコメントしてくださっている方、地中から発掘してくださった方にこの場を借りて御礼申し上げます。 (2022年7月9日 22時) (レス) id: 4692de9cf0 (このIDを非表示/違反報告)
そうる(プロフ) - 読んでくださっている方、ありがとうございます。古に拙文を書いた当人です。四年前のテキストに耐えかねアカウントを消してしまったため、この作品の細かい箇所の修正がもうできません。(パスワードを忘れてしまいました) (2022年7月9日 22時) (レス) id: 4692de9cf0 (このIDを非表示/違反報告)
そうる(プロフ) - のぁさん» 貴重なご意見ありがとうございます。とても参考にさせていただきました。弱い、という言葉では主人公を表すのにいまいちしっくりきていなかったので思い切って変更することにしました。続編の方でもお付き合いいただければ幸いです。 (2017年10月22日 20時) (レス) id: e4ea35986a (このIDを非表示/違反報告)
のぁ(プロフ) - 続編おめでとうございます!題名の事ですが、私としては題名にこだわり等はないので変わってもそのままでも、と思っています。もし作者様が今の題名より素敵な題名を思いついたのであれば、それに変更する。というのでもいいと思います! (2017年10月22日 17時) (レス) id: 716e994b36 (このIDを非表示/違反報告)
英智君尊いよぉぉぉぉ(((殴 - あっそうなんですね。わかりました〜書き直しが出来たら教えてください♪ (2017年6月17日 18時) (レス) id: 2f00a5668f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:そうる | 作成日時:2016年12月12日 9時