33話 ページ35
しゃがみ込んで彼が覗き込んでいたのは家を庭側に回り込んだベランダの下で、そこには僅かな隙間があった。さらにそこから奥には床下換気口がついている。小さな穴だをあまりにもじいっと見ているものだから、俺の背筋には鳥肌が走る。ほら、動物が何も無い空間をじっと見ている時があるだろう?そんなかんじさ。
彼は目線は寄越さないで、顎に指を当てている。
「なあ、確かネズミは一度も出たことないんだったか。」
「え?ああ、まあね。自慢じゃないけど。」
「なるほどな、そういうことかあ。」
「なにがだい?」
「んー……」
彼はガサゴソと肩のショルダーバックを漁る。するとその中から「あったあった」という声と共に小さな巾着が出てきた。
中には小魚がたくさん入っていて、馨しい香りがする。
「…なんだい、それ。」
「小魚。俺のおやつね。お前も食う?」
「そうじゃないよ!なんでそんなものを。」
「ちょっと試したいことが。」
そう言って彼はその小さな袋を逆さにすると、「えい」とぶちまけたのだ。
小魚たちは当然芝生の上に転がり落ちる。元々の袋が小さいのだから、そんなに量は無いとしてもだ。
有り得ないよ、有り得ない。彼は病気か何かなのか?そんな、人の庭でいきなりこんなことをするなんて。
「君なにやってくれてるんだい!?ここはゴミ箱じゃないんだよ!?」
「わーってるよ、ちょっと黙っとけお前。逃げちゃうだろ。」
「はあ!?」
彼は迷惑そうな顔をして指を口元に当てた。何のポーズだいそれは。迷惑なのはこっちなのに。
空になった袋を鞄に仕舞い込むと彼は立ち上がる。不審げな俺の目に気付いたのか、幾分か気まずそうにして彼は言った。
「あとはこれをしばらく放置しとけば大丈夫だから。もし何かあったらきちんと片付けるし。」
「……意味がわからないよ……」
「じきにわかるから。その間に家の中を見せてくれ。」
どうせ今回きりの付き合いだ、信じてほしいなんて彼は笑うので、俺はそれに首を振って同意した。
もう調査は始まってしまっているのだ、どうなったって依頼した俺の責任でもある…のかもしれない。
今度は彼は勝手に歩き出したりはしないで、大人しく俺のあとをついてきた。ちょっと静かなくらいだった。
反省したのかな、なんて一瞬考えたけれど、そんなはずはない。何故って?家主が鍵を開けなきゃ彼は家に入れないんだからね!
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そうる(プロフ) - 表現や関係性、トリック等に山のように修正箇所がありますし、名前変換の修正が不充分な箇所もあるので土に埋まりたいほどなのですが、それでも今なおコメントしてくださっている方、地中から発掘してくださった方にこの場を借りて御礼申し上げます。 (2022年7月9日 22時) (レス) id: 4692de9cf0 (このIDを非表示/違反報告)
そうる(プロフ) - 読んでくださっている方、ありがとうございます。古に拙文を書いた当人です。四年前のテキストに耐えかねアカウントを消してしまったため、この作品の細かい箇所の修正がもうできません。(パスワードを忘れてしまいました) (2022年7月9日 22時) (レス) id: 4692de9cf0 (このIDを非表示/違反報告)
そうる(プロフ) - のぁさん» 貴重なご意見ありがとうございます。とても参考にさせていただきました。弱い、という言葉では主人公を表すのにいまいちしっくりきていなかったので思い切って変更することにしました。続編の方でもお付き合いいただければ幸いです。 (2017年10月22日 20時) (レス) id: e4ea35986a (このIDを非表示/違反報告)
のぁ(プロフ) - 続編おめでとうございます!題名の事ですが、私としては題名にこだわり等はないので変わってもそのままでも、と思っています。もし作者様が今の題名より素敵な題名を思いついたのであれば、それに変更する。というのでもいいと思います! (2017年10月22日 17時) (レス) id: 716e994b36 (このIDを非表示/違反報告)
英智君尊いよぉぉぉぉ(((殴 - あっそうなんですね。わかりました〜書き直しが出来たら教えてください♪ (2017年6月17日 18時) (レス) id: 2f00a5668f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:そうる | 作成日時:2016年12月12日 9時