25話 ページ27
左手の指に挟んだ小さな紙をひらひらと仰ぐように弄る。ほんの僅かに巻き起こった風が頬を撫でた。
まだバーの開店時間じゃない。仕込みも終わったから少し休憩をするつもりで、カウンターの席に腰掛けている。
静かに、優雅に。いつもなら軽く軽食をつまみながら心を安らげる時間であるはずなのだが。
「フーラーンーシースー!俺は腹が減ったんだぞ!!何か作ってくれよ!!」
今日はまだこんな時間だというのに、来客がいるのだ。しかもとびきり厄介なやつ。
ついため息が出る。でも目の前のやつはそんな俺に気付いていても、絶対に配慮なんてしないのだ。
「……あのなあ、アルフレッド?飯が食いたいなら開店してからにしろって何度!」
「別にいいじゃないか、俺と君の仲なんだし。それに俺は今お腹が減ってるんだよ!」
散々繰り返した警告は今日もまた無惨に破り捨てられた。今まで勝てた試しはない。
このアルフレッドは、金髪に綺麗な青い目に、高校時代にラグビーだかで培ったガタイのいい身体を持つイケメンであるのだが、あの眉毛、アーサーの従兄弟にあたる家系らしい。眼鏡をかけているのはゲームのし過ぎで最近視力が落ちたからだそうで、今は運動もするが何よりご飯が大好きなヤツ。子供がそのまま大きくなったような人間だった。
昔からその世話をたまに見ていた俺だから、多少は気心も知れた中ではあるし、何よりゲームなどではだいぶ話が合うので仲間ですらある。
しかしこいつは人の話を聞かないのだ。意見を譲る気もさらさら無いわけで、一度言い出したら俺が折れるしかない。
きっと大学が終わったばかりで、月末だから金もないんだろう。どこから入り込んだのかと思案したが、アルフレッドに扉の鍵はあってないようなものだから、後で勝手口を確認しに行かねばならない。
「仕方ないなあ…サンドイッチでいい?」
「俺はなんだって構わないぞ!」
馬鹿みたいに食うこいつの胃袋が満たされる程のサンドイッチなんて用意はできないが、少し食えば満足するだろうし。
嬉しそうに座って足をバタバタとさせたアルフレッドを見ながら、俺は席を立った。確か明日のために用意していた材料があったはず。
カウンターの奥のキッチンに向かう。
「ちょっと待ってな、アル坊。」
「うん。」
俺がアルフレッドに背を向けて手を動かし始めた時、その彼は俺が元いた席の机をじっと眺めていた。
そこには、カードが一枚置かれていたのだ。
「……探偵…?」
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そうる(プロフ) - 表現や関係性、トリック等に山のように修正箇所がありますし、名前変換の修正が不充分な箇所もあるので土に埋まりたいほどなのですが、それでも今なおコメントしてくださっている方、地中から発掘してくださった方にこの場を借りて御礼申し上げます。 (2022年7月9日 22時) (レス) id: 4692de9cf0 (このIDを非表示/違反報告)
そうる(プロフ) - 読んでくださっている方、ありがとうございます。古に拙文を書いた当人です。四年前のテキストに耐えかねアカウントを消してしまったため、この作品の細かい箇所の修正がもうできません。(パスワードを忘れてしまいました) (2022年7月9日 22時) (レス) id: 4692de9cf0 (このIDを非表示/違反報告)
そうる(プロフ) - のぁさん» 貴重なご意見ありがとうございます。とても参考にさせていただきました。弱い、という言葉では主人公を表すのにいまいちしっくりきていなかったので思い切って変更することにしました。続編の方でもお付き合いいただければ幸いです。 (2017年10月22日 20時) (レス) id: e4ea35986a (このIDを非表示/違反報告)
のぁ(プロフ) - 続編おめでとうございます!題名の事ですが、私としては題名にこだわり等はないので変わってもそのままでも、と思っています。もし作者様が今の題名より素敵な題名を思いついたのであれば、それに変更する。というのでもいいと思います! (2017年10月22日 17時) (レス) id: 716e994b36 (このIDを非表示/違反報告)
英智君尊いよぉぉぉぉ(((殴 - あっそうなんですね。わかりました〜書き直しが出来たら教えてください♪ (2017年6月17日 18時) (レス) id: 2f00a5668f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:そうる | 作成日時:2016年12月12日 9時