【男主】unità difettoso！【APH】

24話 ページ26

「女の方、左手薬指の付け根に指輪の跡の日焼けがある。あの若さで未亡人っていうのも考えにくいですから多分きっとそういうこと。それに昼間にふたりを見るってことは、つまり夜はデートしてなかったってことですよ。」



どうしてか、わかります？


憐れむような色を込めて、彼は俺に訊いた。
頻繁に逢瀬を重ねていたように見える二人だから、きっと夜にだって会っていたっておかしくはないはずなのだ。それを俺が偶然見ていないことも有り得ないわけではないけれど、よりによって、この街のデートスポットに知らない場所はないと自負する俺に限って。

つまり。



「夜にデートできない理由がある、ってことか。」

「そう。きっと彼女は家事をしなければならなかったんでしょう。だから昼間しか会えなかった。ついでに言うなら、いつも同じ場所でデートをしているんだから、この店は旦那から目が届かない場所である可能性が高い。外を不用意に出歩いて旦那様の同僚、もしくは本人に見つかってしまったら危険ですし。」



推測ですけどね、とつまらなさそうに言って、グラスに僅かに残った紅茶を飲み干してしまう。

俺は驚愕して声が出ない。
無くなったグラスには、氷がみっつ、残ったままだ。



「彼女さっきから携帯をちらちら見ていますから、こっそり旦那様と連絡とってるんだと思いますよ。そして彼はそのことには気付いてない。だから可哀想なんです。」



恋は盲目とはよく言ったものだと思う。

仲良くケーキを食べ合う二人を、俺はさっきとは違う視点で眺めた。幸せそうな男、ニコニコと笑う女。
ああ確かに、言われてみればそうかもしれない。彼女は携帯を時折触っているし、よくトイレに立った。彼氏の方は、そんな彼女を少し心配そうに見つめている。体調が悪いように見えているんだろうか。

よく気付いたな、と思う。
俺のとの会話と少しの観察で、よく。



「まあ、彼は彼女にぞっこんみたいですからいいんですけど。余計な口出しもするつもりないし。」

「え？」

「あの二人、特に彼の方が浮気調査とか頼んでくる可能性、無きにしも非ずでしょ？」



悪戯っ子のように笑った相手が、携帯カバーのポケットから何かを取り出した。
それは小さな白い紙で、彼の名前と連絡先、住所が書かれている。
名刺か、と気付いた。



「引越し先でまた探偵業やるので。ご用命の際は是非。」



両手で差し出されたそれを素直に受け取る。
あのグラスの中で氷は揺れていなかった。

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