【d!】8月32日【合作】 (ページ43)

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行かないで(tn) ページ43

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料理は絶対に俺の方が上手い。あいつおっちょこちょいやからゴミ出し忘れそうやし、服畳むの雑やし。どうせすぐ部屋ぐちゃぐちゃにして大事な書類とか無くしそう。一人暮らししたいとかまじで意味分からん。
ぶすくれた思考が幼稚な負け惜しみを形作っていく。自分のベッドにわざと音をたてて倒れ込んでもなんの気晴らしにもならない。登下校にしか使っていないはずの制服の汗臭さが鼻先を掠めてまた苛ついた。一階からおかんが俺を呼ぶ声がする。窓の外でカラスが鳴いて、あいつが帰るからともう一度声を張り上げた階下。エアコンをつけ始めた部屋が暑かったから、下に降りようと思った。

二つ上の幼馴染が遠くの大学に行くことを知ったのは、彼女が引っ越す四日前だった。なんで教えてくれんかったん、なんて言葉が子供っぽくて余計に惨めだった。俺が避けていたのに。幼馴染が知らないところに言ってしまうのが嫌で、怖くて。不貞腐れて見送りに行かなかった俺を、翌日の朝になっておかんは遠慮気味に咎めた。

帰りの電車は十六時三十九分、ここから歩いて十五分の駅。そう言いながら、控えめに眉を寄せて送られる視線が鬱陶しい。鬱陶しいから、外に出ようと思った。
湿った空気が重い。日も暮れ始めているのに、掴めるくらいにしっかりと夏の暑さがそこにあるよう。無風のアスファルトから立ち上る熱の煙から逃げるように、早足になって、小走りになって、遂には駆け出した。空気を細く吐いて、吸って、少しずつ息が上がって行く。見知った道を抜けて、過ぎていく景色を目の端に入れて、何かから追われるように地面を蹴った先。

駅のホームにAは立っていた。

「とんちゃん、来てくれたん。」

名前を呼ぶ声に、奥歯を噛み締める。
最後に会った日からそんなに時間は経っていないはずなのに、別人みたいなA。化粧のケの字も知らんかったはずの目元はなんだかきらきらしていて、髪も緩くカールしている。今風な容姿とはミスマッチなほど柔らかく訛ったその声だけが変わらない。

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