【d!】8月32日【合作】 (ページ40)

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葬式(kn) ページ40

つまらない葬式だった。喪服は黒く、当たり前に日差しを集めた。母から手渡された白いハンカチに、汗が染み込んでいく。汗を吸ってわずかに重たくなったハンカチをワンピースのポケットにしまうと、私の姿は本当に黒かった。クーラーの効いた冷たい部屋を出て、廊下を進む。ぎいぎいと鳴く廊下は、踏まれて怒っているみたいだった。
　縁側にコネシマは座っていた。私は右足でゆっくりと廊下の板に体重を乗せた。思惑通り、一際大きく廊下が鳴く。コネシマはその音で私に気がつくと、おう、と言った。
　近づいてから、匂いで煙草を吸っているのだと分かる。コネシマは上着を畳まずに側に置いていた。白いシャツと、腕まくりで露になった、少し日に焼けた肌。私が隣に座っても、煙草の火を消す素振りは見せなかった。
「もうええんか」
「うん。あとは火葬場に行くだけ」
　返事は、なかった。ふー、と煙を吐く音がする。
「読経にも来ないでさ。怒られるよ」
「怒られねぇよ」
「大人だから？」
「大人だから」
　腑に落ちないが、それが本当なら早く大人になりたいと思った。モノクロの服装も、じっとしていなきゃいけない読経も、ぜんぶつまらなかった。
　コネシマは吸殻を踏み潰すと、グッと伸びをした。それからあくびを一つ残してそのまま背後の畳に寝転がる。そのまま目を瞑りだしたので、こちらが慌ててしまう。
「今寝るの？もう火葬場にいくんだよ？」
「……お前も寝たら」
　面倒そうに片目だけで私を見つめて言った。迷う私に、コネシマが追い打ちをかける。
「寝過ごしたら、俺の車で一緒に行ったらええやろ」
　少し考えてから、そうだね、と小さく呟く。コネシマはもう眠っていた。私も隣に横になって、天井の木目を見つめた。どこからか漂う線香の匂いと、開け放たれた窓から流れ出る冷気。目を閉じれば、蝉の声が迫ってくるような気がした。けれどそのうちに、全てがかすんで、遠くなった。

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