【d!】8月32日【合作】 (ページ36)

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「暑くてやってられへんよな、わかるわかる。これもらっといて」

東階段の裏、階段下の収納前。奥まっていて見えないからという理由で連れてこられたこの物陰でモナカアイスを割ったチーノくん。チョコ入ってないやつだこれ。チョコ苦手なのかな。

「俺は黙っとくから、こっちは共犯ね」

さわやかに笑って3分の1程を手渡してきた。賄賂ってことか。いやでも、私が渡すべきじゃないのか？私なんもあげれないけど？
室内かつ陰とはいえ廊下の気温は高い。あっという間にバニラアイスは溶けていく。仕方ないとひとくち食べればつめたくて、あまくて、酷暑を歩いたご褒美のようだった。

「ちーのくん」
「ん？」
「ごちそうさまでした」

決してルール違反にちょっとドキドキして、いつもより美味しかったわけじゃない、溶けちゃうからだ。そう言い聞かせながらだったが指先に残ったのは最中のカスだけだった。
チーノくんの方は口が大きいようで私の倍あったと思う。私がちょっと迷ってから食べている間にもう食べ終わっていた。慣れたものらしい、包装を小さくまとめてティッシュに包んで証拠を見つかりにくいようにしてから先程出してきたビニール袋にしまった。中のスポーツドリンクのペットボトルに水滴が滴って袋に張り付いている。

「あのな…や、なんもない。ほんなら行こか」

私が指先を拭くのを確認してチーノくんは階段の方へ歩き始めた。何を言いかけたのか尋ねようとすると課外開始の5分前を知らせる予鈴が鳴る。吹き出していた汗もアイスと日陰でどうにか落ち着きはじめたのに遅刻の可能性がみえてまた小走りで移動するから流れ出している気がする。

あとで私もなんかあげたほうがいいよな、と軽く考えながら3階まで階段を駆け上がる。アイス分けてくれるほど暑さにやられてそうな顔してたかしらと思いつつ、お礼は帰る前に声をかけてから決めよう、さっき何を言いかけたのかも聞こう、とチーノくんの背中に続いて冷えきった空気の満ちた教室に飛び込んだ。